07. 「ちょうだい」




 抱いてもいい?

 そう問うと、一旦開かれた口は、だけれど言葉を発せないままに閉じ。
 次第に、真っ赤になって。
 そうして、それを誤魔化すように眉を顰められる。
「んーだよ、突然っ」
 ククールの動揺する姿は、頗る解り易い。
 焦ると口調が5割悪くなる。不機嫌を装う為にだろう、言い方は荒い。
 だけど、伊達にそれなりの時間一緒に旅してる訳じゃないんだよね。
「ご無沙汰なんだもん」
 にこりと笑ってそう言うと、耳朶まで綺麗な朱色に染まった。
 それに、突然って言うけど。結構、僕なりにアプローチはしてたんだよ。君が気付かないだけで?
 軽く見せているようで、案外にククールのガードは甘くない。
 最近、それを崩すのが堪らなく楽しい。勿論、何度かの割合で死守されもするけど。
 恋愛に関しては初級者の僕でもそれが出来るくらいには、好かれているんじゃないかって……思い込むことにしている。
「そんな…余裕」
「うん、最近なかったけど」
 山越えしてた所為でここ数日、野宿ばかりだった。流石に、外でっていうのに抵抗があるらしいククールは口付け以上のことを許してくれなくて。
「こんなとこでそんな気になるなんて、信じらんねぇ」 と、心底呆れたように言われたのなんて数えるのも馬鹿らしいくらいだ。
「久しぶりの宿屋だし、ね」
 小首を傾げながら、一層笑みを深くする。と、視線がそわそわと彷徨う。乾いた唇を湿らせるのに、ちらりを赤い舌が見え隠れして……誘う。
 そうする本人は無意識だろうけど、そんな所作は酷く妖しい。
「……俺、疲れてんだけど」
「うん、知ってるけど」
 それでも。
 無茶させるって解ってても、欲しいと思ってしまう。
 止められない。
「ずーっと我慢してたんだから」
 ご褒美、ちょうだい?
 ふたりきりの時に素直にそうされると、否と言えなくなるのを知りつつ、強請る。
 蒼い瞳が些か拗ねたように眇められ、赤い唇からは深い吐息が吐かれ。
「………明日の夕食のワインは、ワンランク上な」
 そうして、ようやっと渋るかのような声音で、諾と返ってきた。
 だから、笑って答える。

「君の、」
 ―――望むがままに。




06.02.20



 コトの最中のオネダリを書くべきかと思いつつ……月ノ郷には無理だという結論に行き着き、こんな(笑)。





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