01. 「どうして」




 じっと覗き込んでくる瞳の色は濡れた黒檀。
 常に穏やかさを醸し出しているそれが、情欲の色に染まる。
 その瞬間が、どうしても―――。
「わりぃ、やっぱ…ダメだ」
「どうしてさ」
 この後に及んで、逃げようっていうの?
 恨めしそうに睨みつけてくる瞳の強さに思わずたじろんでしまう。
「……これ以上、我慢なんて出来ないよ」
 そりゃ、お前だけじゃない。俺だって同様、のっぴきならない状況にある訳だけど!
「あー……だから、」
 別にしたくないって訳じゃないし。
 経験がないって訳でも…ないんだけど。
「まさか、怖いからなんてことないよね」
 にんまり笑って言ってくる様が、絶対こいつは解ってやってるんだと俺に知らしめる。
 つーか、解ってるんだったら!
 もうちょっと、攻め方変えろよ!!と、理不尽な怒りを感じる。
「ククールってさ」
 じっと睨み付けてたらば、意地の悪い笑みが子どもの拗ねたようなそれになって。
「メタル系スライムより凶悪だよ」
「……その例えは、どうかと思うぞ」
「だって!」
 連戦連敗だ、なんてぼやく。
 いや、俺だって…こんな事で勝ったって嬉しくない。
 なまじ少なくはない経験がある分、こっちの方が余程余裕がない。実のところ、ここいらが理性で律しきれる臨界地点だ。この線を越えたら、こいつの手を拒むなんて出来なくなる。
 だから―――。
「……俺の所為ばっかにすんな」
 恐怖で躊躇する俺の懇願を、無視しきれないお前にだって責任はあるんだからな。



2005.08.24



 ごめん、すっごい楽しい!




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