04. 「痛い」




 襟ぐりを掴み上げられ、真正面から見据えられ。
「お前の言う事なんて、金輪際信じない」
 そう宣言したククールは、蒼い瞳を煌かせ怒り心頭の勢いのままに拳を振り下ろしてきた。


 ズキズキと痛む頬を、そっと撫で摩る。
「痛い」
「……謝らないぞ、俺は」
 ふんと、明後日の方を向いたまま、ククールは怒り覚めやらぬといった態。
 だから。
「解ってるよ」
 そう、謝罪しなきゃならないのは僕の方だ。
 こういう関係になる前に、ククールはククールなりの誠意である程度の過去を明かしてくれた。教会と寄付金の関係とか、義兄との関係とか、それこそ話す事を躊躇わずにはいられない、諸々を。
 今更現実を見て、つまらない嫉妬を募らせたのは、他ならない僕だ。
『過去も未来もひっくるめて、ククールの全てをちょうだい?』
 それに返ってきたククールの答えは 『約束は出来ねぇけど』 だったけど。それでも、今だけならと言ってくれた。ククールにすれば、それが精一杯の譲歩だったんだと思う。
 そうまでしてくれた想いを詰って、手酷い方法で傷付けた。
 ククールは拒絶される事を何よりも恐れていたって、知ってたのに。
「……ごめん」
「謝るな」
 きっぱりと切り捨てて。
「俺はお前の言うことなんざ、金輪際信じないっつーただろ」
 謝るだけ、無駄だ―――そう言い切る口調には、さっきまでの鋭さは感じられない。
「だから、ごめん」
「無駄だ」
「ごめん」
「いくら謝ったって、無駄」
「ごめん」
「………」
「ごめん」
「…しつけーぞ」
「ごめん」
「……煩せぇ」
「ごめん」
「………聞けよッ」
 焦れたのか、ようやくこちらに向けられた視線にホッとする。瞳の内にわずか込められた怒気は、先程のものとは種が違う。
 その瞳を見つめたまま、
「今更、信じてくれなんて言えないけど。だけど、」
 ―――好きだよ。
 告げると、瞳の蒼が微か揺れる。
「―――ッ、これだからガキは嫌いなんだ」 小さな舌打ちの後、視線が逸らされて。忌々しそうに零れた呟きに、許された事を知る。
「精進します」
 一時も早く、全てを包み込める大人になれるように。
 暫し考えるように間を置いたククールは。だけど、 「あーもう、お前はそんままでいいから」 と溜息混じりに零した。
「何、それ」
 諦め切ったような様子がおかしくて笑いかけたら、殴られた頬が酷く痛んだ。
「痛ッ」
「あー、それ魔法で治すなよ」
 そのくらいの罰は受けてもらわねーとと言うククールには、流石に反論できない。
「格闘に転向した方がいいかもね」
 力はないけど、身長差を活かして頭上から振り下ろされたパンチはかなり効いた。
「………冗談、んーなの俺のスタイルじゃねーって」
 そう言って浮かんだ笑顔を目にし、何故だか無性に泣きたくなった。



2005.08.30



 男前受けって好きなんですよねぇ(笑)。つーか、我が家のクク様は絶対に主人公には勝てない気がする。絆され体質だから(←?)。




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