06. 「大ッ嫌い」
「ククールなんて、大ッ嫌いだ!」 売り言葉に買い言葉。 「あぁ、結構だね。元々好いてくれなんて頼んでねーし」 さらりと言い切ると、目の前の肩がぴくりと揺れた。一瞬の逡巡を挟んだ後、黒檀の瞳が怒りをまとってキッと睨んできた。 「意に沿わない事ばっかして、悪かったね!」 「で、結局喧嘩の原因は何なの?」 朝からギクシャクした俺たちを見て取ったゼシカは、最後尾を歩く俺に歩調を合わせてきた。 「……別に、」 何だって、俺に振ってくるのか。 「だって、彼、あぁ見えて口堅いし」 「……」 それは、俺の口が軽いって認識されてるってことか? 溜息をひとつ零せば、 「彼、絶対根に持つタイプだと思うんだけど?」 空恐ろしい事を平然とのたまわってくれる。 確かにその通りで。女の目と勘は侮れないって今更ながらに思う。 「……最初は」 乾いた唇を舌で湿らせて、思い出したくもない昨夜を振り返る。 「確か………守備力の高い防具はどっちが装備すべきか、とかいう話だったと思う」 それがどう発展したんだったか、諍いにまで到達した。 「っていうか、人のこと散々か弱いとか、守らなきゃとか、ふざけた事ぬかすから…だな」 勢い込んでそこまで言って、窺ったゼシカの表情は。 「…………馬鹿じゃない?」 明らかに呆れていた。 あまりにあからさまな態度でゼシカが言うのには少々ムッとしたが、レディには紳士然とした対応が俺の主義だ。だけど、機嫌がいい訳じゃない今の現状じゃ、軽くいなす事も出来かねて、肩を竦めるだけに止める。 それをどう取ったのか、零されたのは呆れを含んだ溜息。 それらは勿論、見ないふり、気付かないふり。 ゼシカは、いい女だと思う。 媚びない、靡かない、多少我侭だけどそれも可愛い女の子の特権の範囲内。強い意志を持ち、瞳を煌かせるゼシカを嫌える奴なんていないに違いない。潔いまでの態度は、目を射るほどに眩しい。 「結局、ふたりして相手の事心配で堪らないから、って事でしょ」 「はっ?」 ちょっと待て! どうしてそうなる。 ゼシカの都合のいい解釈に思わず唖然とした後、更に止めのひと言を投下された。 「知ってる? そういうのを痴話げんかっていうのよ」 2005.08.31 ククールも主人公も唯一の女の子であるゼシカに対して恋愛感情が湧かないのは、彼女が母性のイメージだから。 ・ back ・
|