07. 「自惚れていい」




「あんたはもっと自惚れてもいいと思う訳よ」
 些か怪しい呂律で、ゼシカは僕に指を突きつけてくる。
 っていうか……あんまり突然すぎて、一体全体何のことを指して言ってるのかが解らない。
「ククールのことよ!」
 彼女の口から出された名に、刹那胸がとくりとなる。
「あー……うん」
 彼に関する事になると、何故か僕は自分に自信が持てなくなる。だから、他の人には絶対にやれないような無謀なこともやっちゃうんだ……と、思う。僕自身の問題なのに、それをやられるククールにはちょっと罪悪感を覚えないでもない。
「あいつにとってのあんたって、結構な比重占めてると思うの」
 知ってる? あいつが同室していいって言うのはあんただけよ?
「だけど、それはさ」
 ゼシカはどんなに強くたって女の子だし。ヤンガスのいびきはちょっと他にはないくらい煩いから…だよ?
「だからよ。本当に嫌だったら、自腹切ってでもあいつは別部屋を取ると思うのよね」
 この時になって漸く、何杯目なのかも思い出せないグラスを傾けるゼシカが、酔っているらしいと気付いた。
「あぁ、うん…まぁ、そうかも」
 酔っ払いには逆らわない方が得策っていうのは、ククール相手に既に学習済みだから、曖昧に返す。と、意を得たとばかりに、ゼシカは大きな胸を張った。……いつも思うけど、大きすぎて邪魔になんないのかな?
「そうなの! 笑顔で誘っておきながら、あいつはその実他人には絶対に踏み込ませないじゃない」
 だから、誰も気付かない。誘いこそが、彼なりの牽制だと。主導権を握るのは、彼自身の方だと?
 その論法には、納得出来てしまうかも知れない。
「呑み過ぎだぞ、お前ら。……っていうか、人のこと酒の肴にすんな」
 頷いたとこで、いつもより下がってはいるが聞きなれた声が文字通り頭上から降ってきた。
 案の定、見上げた先には不機嫌極まりない表情のククール。
「きゃはははーv 痛いトコ突かれて怒ってんでしょ」
「………」
 いっそ深くなる眉間の皺は、ゼシカの台詞を肯定してるのかそうでないのか。
「そろそろ切り上げろよ」
 俺は先に寝るからな、と踵を返しかけるククールの腕を咄嗟に掴んで引き止める。訝し気に見下ろしてくる蒼い瞳に、にこりと笑みを向けると、
「……んーだよ?」 僅か身を引きながらも問うて来た。
「ね、ククール。僕は自惚れていい?」
 首を傾げて、蒼を覗き込めば。刹那、ククールは色を失くした。
「いや、いい! っていうか、良くない! お前は、そんままでいいから」
「…………」
 思わず、笑みを深く刻んでしまう。
 と、ククールはぎくりと顔を引き攣らせた。
 ……相変わらず、墓穴掘るのが得意だよね、ククールってさ。




2005.09.02



 ↑この辺りが、主の弱気腹黒気質を表してると思われる。




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