08. 「黙れ」
絶対に嫌だぞ―――渾身の思いで告げれば、抱きしめようと伸ばされていた腕がぴくりと動作を止める。 そして、黒檀の瞳が恨めしそうに見上げてきた。 「何で!」 「何でもクソもあるか!!」 そりゃ、知らなかった頃はそれなりに気になりながらもやってた事だけど。 「お前のポケットに入ってんのは何だ!」 怒声に驚いたのか、元凶であるソレがポケットの中にさっさと入り込んだ。 トーポ、ただのネズミだと思ってた頃は……それこそ、目の前だろうとポケットの中だろうと構わずにいられたけど! それでも、それが本当は思考能力の備わった…それもこいつの祖父だと知った今となっちゃ……出来ないだろ! それよか、知ってさえ尚、平然とソレの目の前で抱きしめてこようとするこいつの頭の中を覗いてみたい。 ごそごそと蠢いているポケットに視線をやり、訝しげに目を眇め。 「今更だと思うけど」 ―――と、平然とのたまう男に 「〜〜〜ちっ、違うだろーっっ!!!」 ここ最近ないほどに怒髪天を突かれる。 視られてんだぞ、全部っ! 自分でも直視したくない……あんなトコやそんなトコやら、兎に角恥ずかしいトコをっ! 余すトコなく!!! 「何そんなに怒ってるの」 「お前ッ! 絶対変だ!!」 トーポの正体を知った時の衝撃といったら、愚兄の愚行を知った時の比じゃなかった。 ひとりで怒鳴っている所為で、ぜーぜーと息が乱れる。おまけに喉が痛い。 「はっ、恥ずかしいとか! 思わないのか?!」 俺の言葉にやっと合点がいったのか、ポンと手を叩き。 「大丈夫だよ、乱れるククール綺麗だから」 流石だと感心させられる台詞を発して下さった。 つーか! 「…………黙れ」 誰か、頼むからこいつをどうにかしてくれ。 2005.08.25 主人公はこういうこと全然気にしなさそうかな〜と? ネズミの時はネズミと認識してそうで(笑)。でも、ククールとしては、そうはいかない!…ですよね。 ・ back ・
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