生まれいずる処 日に焼けない白皙の肌とか。 長い睫が影を落とす頬のラインだとか。 背を流れる銀糸の髪だとか。 何気ない仕草だとか。 彼の人の全てが、僕の中のソレを喚起する。 ここのところ野宿が続いていた。だから、漸く辿り着いた小さな町で、久しぶりにまともな宿が取れたのにホッとした。 尤も、王や姫はいつもと変わりなく町の外で野宿になってしまうのだけれど。戦うのはお前たちなのだからゆっくり休めと笑う王のところへは、先程温かい食事を届けたばかりだ。 申し訳ないと思う気持ちと、柔らかな寝台で寝れる幸福とに微妙な心持になりながらククールとの相部屋へ戻る。と、先に食堂から戻っていた彼は上着を脱いだラフな格好で寝台の上に寝そべっていた。 「おー、ごくろーさん」 声は掛けられるものの向けられない視線に何をしているのかと手元を窺えば、あちこちで収集した錬金レシピを見ていた。 「何? 何か出来そう?」 「武器とか強化出来るといいと思ってんだけどな」 性能のいい武器は、やはり値段が跳ね上がる。だけど今のままじゃ、凶暴化していくモンスターに対応出来なくなるのも時間の問題だ。 「レシピ見てるだけじゃ、何がどういいのかよく解んねーな」 う〜んと唸り出したククールに苦笑しながら、バンダナを解く。ベルトを外し上着を脱いで、既に寝入っているトーポを起こさないように気をつけながらテーブルの上に運んだ。 風呂はどうするんだろう…と、寝台上のククールに視線を向けたところで。 日に焼けない白皙の肌とか。 長い睫が影を落とす頬のラインだとか。 背を流れる銀糸の髪だとか。 何気ない仕草だとか。 ―――目を射る。そして、湧き上がる衝動。 「ククールは……」 振り向いた拍子に、髪が白いシーツの上に零れる。 あぁ、どうしようかな。 「頭で意識するより先に手が伸びちゃうことって、ない?」 突然の問いに、だけれどククールはいつものことだとばかりに 「そうだなぁ」 と首を傾げて。 「あぁ、頭に血が上ったときとか? 俺、手早いからな」 普通そうだろうなという答えを返してくれた。 だけど―――。 「僕の場合、それがある特定の人物に限り頻繁にあるんだよね」 「……なんだ、そりゃ」 訝し気に寄る眉根には、まだ危機感が感じられないから。 「うん、ククール見てると。つい、手が出ちゃう」 言いながら、そっと触れた背にてのひらを沿わせる。 「…………って、言いながら触んな」 身動ぎするのを押えるのなんて、体制の所為も相まって容易い。手の動きは、コトを仕掛ける際に施すものと同じ。 「触れたいとか、ヤりたいとか、そういうこと思う前に勝手に手が伸びてたりするんだ」 「ーって、だから触るなってんだろ」 焦って、僕の手から逃れようとする。 確かに。明日からの道程を考えれば、今コトに及ぼうとするのなんて拙いって解ってはいるんだ、けど。 そのまま、上半身を捻って起き上がろうとするのを押さえ付けて、仰臥だけを許した。ムッとした蒼い瞳を、じっと覗き込む。 「今までこんなことなかったから……どう抑えていいのか解らない」 「いや、だったら! 今覚えろ!!」 直ぐにだ! と、声を荒げて言われて、自制出来ない自分が悪いのだとは知りながらも、つい愚痴ってしまいたくなる。 「………でも、それ以上に、何でククールがそんなに嫌がるのかが解らない」 拗ねてじっと蒼い瞳を見つめていると、一瞬絶句した後、ククールは大仰に溜息を吐いた。 「……抵抗敵わない上、結局ヤられた挙句、俺ばっかきつくて、ゼシカに白い目で見られるのなんて、割に合わない」 何で俺ばっかり―――そう言って、今度は逆に睨み上げてくる。確かにその通りではあるんだけど……。 「最終的には流されちまう俺も俺だけど、それだったらお前だって同罪だろ」 どこか憮然と言う様は、普段僕を子供扱いする彼の人を余程幼く見せて。 「……だったら」 「んーだよ」 「明日一日、休みにしよう」 この先ちゃんとした町にいつ辿り着けるかも解らないし、皆疲れてるみたいだし、と提案すると、 「…………だったら、俺の休息も確保してくれ」 どこか疲れた風な言い草が返ってきた。 「それは……ククール次第かな」 明らかに何かを含んだ物言いを吐息と共に耳元に落とすと、ぴくりと強張った。頬に、首筋に、耳朶に。綺麗に朱が散る。 「畜生ッ」 と、口汚く罵った後、キッと睨み上げてきて。 「受けてたってやろうじゃねーか」 挑戦的に言い放つククールの、赤く色づく唇に噛み付くように口付けた。 日に焼けない白皙の肌とか。 長い睫が影を落とす頬のラインだとか。 背を流れる銀糸の髪だとか。 何気ない仕草だとか。 彼の人の全てが、僕の衝動。 ...... END
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