ハロウィン






「ハロウィンだったんだって」
 唐突に話題を振ると、ククールは寝台の上に寝そべった体勢のまま、不思議そうに見上げてきた。
「……ハロウィン? って何だ?」
「昨夜、子供たちが何か変な格好して変な言葉言いながら、袋差し出してきたアレ」
「あぁ、とりっく…おあ〜とりとーとか何とか言ってたな」
 子供たちが口々に言っていた単語を、たどたどしい口ぶりでなぞる。
 昨夜、着いたばかりの初めての街。門をくぐったところで、突然にお化けみたいな格好をした子供たち数人に囲まれて、僕等は至極驚いた。ヤンガスやゼシカは子供相手に無碍にも出来ず、オロオロしていた。尤も、僕とて平然としていられた訳じゃないけど。
「トリック・オア・トリート。お菓子くれなきゃ悪戯するぞって意味なんだって」
 僕等の中で唯一、難を逃れたククールは面白そうに腕を組んで僕等の焦る様を見学してくれてたけど。
「極悪な子供等だな」
 脅迫と紙一重じゃないかとの言に、本気で言ってるんじゃないとは知れてても苦笑が漏れる。
「何か、この時期、この辺りでは一般的にやってる秋の収穫を祝い悪霊を追い出す祭りだって」
「で、何でそんな祭りに子供の盗賊団が闊歩するんだ」
 うん、それは僕も不思議だったけど。
 農民が祭りの為に食料を貰って歩いた様を真似てる、とか何とか聞いた気がする。何でそれで、子供たちがあーなんだっていうのはやっぱり解らなかったから、僕の口からは説明しようがない。
「さぁ? でも、昨日知ってたら良かった」
「盗賊団の一員にでもしてもらうつもりだったのか?」
 さも可笑しそうにくつりと笑うのに、ムッとする。
「うん。ククール専門の、ね」
「はっ?」
「お菓子なんて持ってないよね、ククール。だったら、悪戯し放題だもん」
「………そんな邪な」
 呆れて言い掛ける唇を、素早く塞ぐ。
 耳まで朱色を乗せたククールに見惚れながら、
「仕方ないじゃない? 甘いものが好きなのは、子供だけじゃないんだから」
 にこりと邪気のない笑みを返してあげた。

 ……君との口付けは、何よりも甘い。








...... END
2005.10.31

  ハロウィン翌日のふたり。

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