[ 01. 好敵手 ]
―――好敵手。 それは、互いを高めあう…高めあえる、そんな存在で。 俺はあいつとそういう間柄でありたいと、思っていた時期もあった。 + + + ルックにはそういう相手、いるか? 事の始まりは、俺の発したそのひと言だ。 「はっ、そんなのいないよ」 端然とした佇まい。 誰を相手にしても、変わらないその態度。 それは、俺を前にしても同じで―――だからこそ、気になった。 なのに、そんな風に呆れたように言われてムッとする。 そんな俺の態度に気付いているのかいないのか、ルックはゆるりと腕を組む。 「そもそも、僕にはそんなの必要ないし」 きっぱりと言い切る様は、流石ルックといえなくもないが。そのルックを好敵手と思っていた己からすれば、切り捨てられた感が否めない。 「だけど、ないよりはあった方が互いを高めるのにいいだろ」 そう思わないか?と尋ねれば、ふんと鼻まで鳴らされて。 「あんたがそう思うんだったら、あんたにとってはそうなんだろうけど」 でもそれは、あくまであんたにとってであって、僕にとってじゃないんだよね―――あまりに淡々と、告げられる。 「負けたくないとか思うのって、機動力の一端にはなるだろ」 態度と声音に不機嫌さがこもっているのは自分でも解るが、抑えようがない。相手が誰であろうと、気持ちが一方通行っていうのはよくある事かもしれない。それでも…否、だからこそ、伝えようとする気持ちまでをも一蹴されるのは、きつい。 だけれど。 「僕は、常に自分を出来得る極限まで高める主義なんだよ」 生憎だったね、なんて言われて二の句が継げなくなった。 + + + 今、思えば。 解放戦争中はただがむしゃらに、前だけを見据えていた。 己と向き合うとか、目の前の相手に向き合うとか……そんな余裕さえなかった。 そんな状態でありながらも戦乱を終結出来たのは。 「俺を信じて全てを託してくれた奴らのお陰だ」 素直に、そう思えるくらいにはなっていた。 正直、あの頃は焦ってたからな…そう呟くと、目の前の翡翠が柔らかに溶ける。 「それが解るくらいには、成長したらしいね」 3年前には見られなかったその優しい色合いに、何故か胸がとくりと鳴る。 「ちょっと、だけか?」 小首を傾げて問えば、深い翡翠を細めて告げられた言葉は、 「ようやっと、人並みってとこじゃない? 3年前には目も当てられなかったからね」 ―――で。 あまりの言い様ながら、言い得ていたから苦笑で返すしか出来ない。 「今の俺なら、好敵手に不足なし?」 そう言うと、ルックは刹那目を丸くし。そして、くつりと笑む。その笑みに、綺麗な顔してるんだと今更ながらに思う。 そうして、ふっと気付く。 この3年間。 この揺るがない翡翠の瞳に、自分を映して欲しくて。 ただ、それだけを願って、己を高めてきたような気がする。 「好敵手、以前に己―――だろ」 それは、 『まだまだ、だね』 って事か。 最大の敵も、味方も、それは己のうちにある。 3年前のルックが言いたかった事、伝えたかった事って、つまりはそういう事だったんだ。今なら、そうはっきり解る。 だけど、確かに……そうなんだろうけど。 「だけど、ないよりあった方がいいだろ」 つい口をついて出た3年前と全く同じ台詞に。だけれど、ルックは軽く口端を上げただけで最早否とは答えなかった。 ―――好敵手。 それは、互いを高めあう…高めあえる、そんな存在だから。 俺はこいつとそういう間柄でありたいと、思っていた時期もあった。 だけれど、今は………それだけじゃ嫌、なのかもしれない。 2005.07.12 認めてなくても、互いに好敵手にはなってる気がする…けど。 ・ back ・ |