[ 05. 白 ]
何がそんなに嬉しいのか、にへらと笑って、
「ルックは緑で、マクドールさんは赤」 さも当然といった態でのたまう。
緑に、赤だと?
「……それは、イメージカラーっつーより、服の色だな」
当然の突っ込みに、同盟軍軍主はキョトンと目を丸くした。
確かに、翡翠の瞳は緑といえば緑かもしれない。
だけれど、どちらかといえば、纏うのは白だろうと思う。
白い頬、白い項、白い指先―――あいつを彩るのは、穢れを知らない真白。
例え血を纏ったとしても。
決してその内までは汚れない。
生命の重さというのを知りながら、押しつぶされない。
解放戦争時は、こいつは決して穢れないのではないかとの思いから、結構な回数遠征に引っ張りまわしていた。
腕っ節は兎も角、魔力に関しちゃ天下一品だから、命を屠った数的にはそう俺とは変わらない筈なのに。それでも、清廉な印象は変わりなく。
そして、唐突に気付いたのだ。
前を見据え、決して逸らさない視線。
潔いまでに命を奪った咎から逃げない、強さ。
当時、色んな柵に縛られ、身動きできず、どこかで逃げを模索していた己には、眩しく目を射るほどに強烈で。
そして、だからこそ、眩い白だと感じていたのだと。
そう思ったら、ふっと。
あいつは俺にどんな色を見ているんだろう、と思った。
目の前の同盟軍軍主の幼い面に、こいつなら聞き出せるんじゃないか、と。
「同じもの見てても、皆が皆同じ色だと感じてるかは解んねーだろ?」
だから、興味をそそるように焚き付けた。
「って、案の定行動してくださるよな」
亀だか馬だかの守護神像前の石柵に頬杖を付いて、石板前を見下ろす。
「ねぇーってば」
広いホールに響くのは、軍主の強請るような声音。
その軍主の向かいには、同盟軍きっての魔法使い。尤も、この位置からだと、小さな頭しか見えやしないけど。
軍主のオネダリという情景は、既にいつものことと黙認されているのか、行き交う者たちの面に浮かぶのは好意的な笑みだ。
だけれど、オネダリされている本人は、違うだろう。
辟易してる様が、目に見えるようだ。
かなりしつこく纏い付かれてると見えて、こちらに気付きもしない。気配に敏いあいつにしちゃ珍しくて、いつ気付くんだろうと面白半分に声を掛けないままに見下ろし続行。
「……そんなこと聞いて、どうすんのさ」
「えー? 聞いてみたいだけ」
「……………無意味なことして、何が楽しいの」
大仰に零したであろう溜息に、知らず口角が上がる。
いつでも誰にでも毒舌を、が身上(?)のルックのこういう様はかなり珍しい。
「僕的には、赤だと思うんだもん」
そしたら、他のみんなは黒だとか紅だとか言うから? 他にどんな色が出てくるのか、知りたくなったんだとほざく軍主にうんざりしたように、もうひとつ肩を落として。
「あいつは……」
「うん?」
期待に満ち満ちた軍主の相槌の暫し後。
「……白金、かな」
「白金?」
う〜んと、軍主の唸る様にそれがどんな色合いだか悩んでいるらしいと知れる。
「白と、金色の混ざったような…色ってこと?」
窺うようにルックの顔を見上げ、自分なりに導き出したそれを問うのに。僅か逡巡の後、
「………太陽の色だよ」
ぽそりと、零した。
それは、そんじょそこらにある単語にも関わらず、ルックという人が零したのにしてはあまりに強烈過ぎて。
「ーーーッ」
ひとりひとり、他に対しての色認識が違うのは、その人に対する感情がこもるから―――だと。
もし、それが本当なら?
目を眇めて、じっと小さな背を見つめる。
と、ふいに―――何の前触れもなく、
「ーッ、」 深い翡翠がこちらを射た。
すっと細められた瞳が、暫し後何を思ったのか小さく笑むのが見て取れ。
というか、だ。
この地点で、何とはなくやっぱ勝てねぇな、と苦笑が漏れた。
「白、かと思ってたけど」
それは、何ものにも染まる事のない頑ななまでのあいつそのままだと、そう思っていた。
だけれど、それより。
「風の色、だな」
気まぐれな過ぎて、今でさえ時折翻弄される。
尤も、その気まぐれさに晒されるのは、やぶさかではない心地よさを伴い。
あいつは―――そんな風、の色だ。
2005.08.04
透明か白かで悩んで、結局風色(笑)。
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