[ 15. 好奇心 ]




 それは、ふとした好奇心。
 好奇心は猫を殺す、なんてことわざを身を持って知るなんて思いもよらないくらいに、些細な。



「マクドールさん?!」
 部屋の扉を叩く音と同時に、扉は開かれた。っていうか、さっきのノックには何か意味があったのか?
「……何だ」 思い切り眉間に皺を寄せながら問うも、この幼い軍主殿にはそういった遠まわしの類が一切効かなかったのに思い至る。
 案の定、場の空気を読まない軍主殿は、
「レストランの給仕の女の子、振ったって本当ですか?」 勢い込んでそう訊ねてきた。
 息急き込んでの来訪の用件が、そんなこと…か。
「あぁ、それが?」
「それがって……凄い勢いで噂話回ってましたから」
「そうみたいだな」
 朝の散歩時に告られて、まだ一刻も経ってやしない…どころか、部屋に帰り着いて一息吐いたばかりだ。まさに、電光石火だな。
 報せの類の速度が大事だとはいえ……内容が内容だ。感心すべきか、呆れるべきか。
 というか。
「暇な奴等ばっかなのか」
 呆れて呟いた台詞に、返されたのはにっこりとした笑みだ。
「彼女、城内でナンバー10に入ってるんです」
「あぁ?」
 なんだ、そのナンバー10って。
「人気がですよ」
「………そりゃぁ」
 光栄だとでも言うべきか? 相変わらずの暢気さに肩ががくりと落ちた。これで、負け戦なしの連戦連勝なんて…敵対している相手も立つ瀬がないだろう。
 そこで、ふっと興味が湧いた。
「その人気モンの他のメンバーって?」
「えーっと…カミューさんとか、フリックさんとかリィナさんにジーンさんとか〜」
 あぁ、まぁ予想範囲内、順当って感じだな。
「あっ、マクドールさんも、僕も入ってますよ」
「ほう〜」
 胸張って言う様が、実にお子様染みている。ささくれた戦場に於いてさえ擦れることのないこの無邪気さは多くの者に愛されるだろうな、と素直に思う。
「因みに一番人気は、ルックです」
 そこで唐突に出された名に、思わず息を呑む。
「ぅ、…あ?」
 常時毒舌吐きまくり、協調性の欠片もない、あのルックが…か?
 って、まがりなりにも惚れてる相手に対しての言い様じゃない気がしなくもないが。れっきとした事実なのだから、これも致し方ない。
「信じ…らんねぇ」
「ルックはもてますよ」
 きっぱりと言い切りながらも、う〜んと腕を組んで軍主は小首を傾げた。
「何故か、男女限らずもてるんですよね。女の子にはあー見えて案外フェミニストだし、これだけ女性陣もいるんだから女の子代わりって訳でもないと思うのに…男にも?」
「…………」
 思い切り言葉に詰まる。というか、それには…返す言葉もない。顔が引き攣っているかも知れないが、ま…ぁ、項垂れずに居られるだけ、マシだと思いたい。
「魔法兵団なんて、ルックのファンクラブと変わりないです」
 それは、ある程度ルックの本性を垣間見ているってことで。それでいながら、あいつがいいってそういう訳だよな。
「マゾなのか?」
 俺は断じて違うけど。
「っていうか、純粋にカッコいいって思ってるんじゃないですかね」
 カッコいい……? あのルックが冠するには違和感ありまくりな単語だな。3年前は、綺麗だけどこましゃくれた餓鬼というのが、あいつの評だった。
 あの頃見せた子ども染みた悪戯や高飛車な態度は今でこそないが、その評は未だ有効だと思っている。
「僕だって、ルックはカッコいいと思います」
「…………なぁる程?」
 あぁ、畜生。
 今、凄いムカッとした。
 これはいわゆる、嫉妬ってヤツだよな。

 現状把握は大事だとはいえ。
 聞かなきゃ良かったと、己の好奇心を呪った。




2006.05.02



 



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