[ 閑話休題 ]




 相手との計れない距離感ってやつは、案外堪える。それが、好きだと認識した相手だと尚更に。
「……たまんねぇ」
「ーー!!!」
「……んーだよ」
 ぼやいたと同時に、これ以上もないくらいに瞠った目が勢いよく向けられた。その大きな目でこちらを凝視する軍主殿を、ぎろりと睨み付ける。そんな視線向けられるなんざ、居た堪れねぇだろ。
「いえ、マクドールさんでも泣き言言うんだな…って」
 ビックリしただけです、と驚き覚めやらぬ態でのたまって下さる。
 今まで全くもってなかった愚痴の零し所を得たんだ。それこそ有効活用しないでどうするよ。
「泣き言…っつーかなぁ」
 我ながら難儀なヤツに惚れたもんだ、と呆れながらも。その相手があいつだった事を厭う気は全くもってないのだが。
「俺って、もてるだろ」
「…………自分で言います?」
「事実だからな」
 自覚持たない方が嫌味なくらいには、もてる。
「ある意味、選り取りみ取りだろ?」
「まぁ、そうですね」
「なのに、何であいつなのかなぁとか…思っちゃう訳よ」
 溜息共々零してやると、 「扱い辛さでは頷けますけどね」 と恐らく本人を前にしては言えないだろう台詞を吐く。こいつも結構言う奴だ。
「面食いとか、目が高いとか……色々?」
 どっちにしても、ルックに惚れるのは解る気がしますけどとの軍主殿の言に、知らず眉間に皺が寄る。
 人工物、自然物どちらの美しいものはそれこそ数多く見てきた。
 綺麗なものを綺麗だと思える自分は、かなり好きだ。
 その俺の目から見ても、あいつは一際目を惹く。
「ま、外見だけじゃねぇってとこが……一番問題なんだろうな」
 そう。外見のみに惹かれた訳じゃないってーのが問題だと思われる。相手があいつってだけで信憑性は薄いかもしれないが、実のところそれ程容姿に拘る性質でもない。
 何で男なんぞを…と頭を抱えなくもないが、あいつが女だったらと考えたことは一度たりとてなく。
 要するに、あいつがあいつだってことが重要だと、そういうことで。
 その時点で、正直―――救いようがない、って思わなくもない…がな。
「……ある意味、これ以上もなくヤバくねーか」
 今更の如く、その深みを思い知った。




2006.10.23



 18話から19話の間の閑話休題。
 惚気も愚痴も、漸く吐き所を得たってことでv




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