[ 02. 露の間 ]




 そろそろ、砦が眠りに包まれる……そんな頃合に。
 その身に星を陥とした天魁星は、当然のように石板前を訪れる。

 石板をざっとひと巡り見回して。
 そして、そのまま何をするでもなく、僕の横で僕と同じ様に暫し石板前の住人となる。
 時には、座り込んで。
 時には……石板に背を預けて。
 時折、気が向いたように声を掛けて来る。
「もう、寝た方がいいんじゃない」
 と言うと決まって、 「うん、もうちょっと…」 と返ってくる。
 三度同じ返答を寄越されてからは、同じ事を言うのも同じ答えを聞くのも面倒で、そう声を掛けるの自体を止めた。
 その代わりに。
「暇だね」 とは、言ってやる。
「鬱陶しい」 とも、何度か言ってやった。
 その度に、彼が見せるのは苦笑だった。

 どんな大変な作戦の前日ででも。
 長めの遠征から帰還して疲れきっている時でも。
 相も変わらず、彼は此処に訪れる。

 とある局面を前に、やはり訪れた天魁星に 「そんな、如何にも体調不全が解る状態でこんなとこに来るなんて……大概にしたら」 と冷たく言い放てば。
「だって、これだけは譲れないよ?」
 等と、訳の解らない言葉が返された。
「何、それ?」
「この時間だけ、ルックの傍に居れるんだよ」

  これはほんの僅かな、露の間。
  君の傍に居れる……ただ穏やかな時間。
  それさえなくなったら、どうなるか解らないよ?

 ただただ、その返答に呆れながらも。
「………ちょっと、だけだからね」

 仕方ないから。
 ―――露の間くらいなら、置いてあげるよ。



2004.02.09



 ルックって、アレだよね? 強く出られるとどこまでも冷淡になれるけど、弱さを見せられると結局最後には折れちゃう…って感じ。
 かな〜り………甘い! うん、色んな意味で(笑)。こちらも時間軸1。



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