[ 04. 此処に… ]




 今、此処に自分が在る理由とか。
 それが自分でなきゃならない訳とか。



「そろそろお茶に、しない?」
 そう言うと、彼はその綺麗な翡翠をすっと細める。
 それは、いつもと同じ。
「……いいけど」
 そう不本意そうに返されるのも、同じ。
 だから、そのままレストランに誘う。
「……何、へらへらしてんのさ」
 微かに寄せられた眉根に、あまり機嫌が良くなさそうだと思った。
「うん、ルックだよなぁって?」
「はっ?」
「僕が、今、此処に居る存在の理由」
「……それ、訳、解んないよ」
「断言できるんだよね。君が此処に居なかったら、僕は絶対此処に居ないって」
 此処―――要するに、このレストラン続く石廊でもあるし、城でもあるんだけど。
「ルックが居なかったら、戦地の真っ只中になるかも知れない此処には、来てないよ」
「………人の所為にするの」
「違うよ。僕が、選んだんだ。ルックの傍に居る事を」
 それには、ルックの存在が必要不可欠だけど。
「だからルックが今、此処に在るって事が、そのまま僕が此処に存在する理由なんだよね」
「…………あんたの言いたい事、全然解んないよ」
 そう言って返された踵に揺れる髪が、はらりと。
 朱く染まった耳朶と項を刹那、晒す。
「うん、いいけどね」
 目にも鮮やかなその色合いに自然零れる笑みを気取られないように、多大な苦労を強いられた。





 今、此処に自分が在る理由とか。
 それが自分でなきゃならない訳とか。
 実際、そんなものを理解している人間なんてない。
 だけどね?
 僕は、知ってる。
 僕が今、此処に存在するっていう事の―――その意味を。



2004.02.14



 うー………メチャ暗いのにしようか、ギャグにしようか悩んで、結局中途を採用(笑)。ギャグだと、坊さまが自分の膝の上を指差して「此処においでv」とにっこりと笑ってる…という、実に変なものになった事でしょう(爆)。



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