[ 05. 真昼の月 ]




 ―――月が出てる


 何気なくぽそりと呟くと、木に凭れて厚い書物を読み耽っていたルックの翡翠が、すっと空を見上げた。
 そして、眩しさ故か数度、瞬いて。
 その度に、長い睫が頬に影を落とす。
 視界に映る天を半分ほど覆い尽くす木々の葉の隙間に、それを見つけたルックは微かに目を細めただけだった。
「太陽も淋しいんだよね、きっと」
 だから、呼ぶんだよ―――そう言うと、ルックは僅かに肩を竦めて。
「あんたがそんな浪漫主義者だなんて知らなかった」
 呆れたように呟く。
 それにはそうかもね、と苦笑を返すに留めた。
 ルックの視線が膝の上の書に戻ったのを視界に収めて、空を……見遣る。
 再び、白く、儚げな月を捉えた。
 空の色に溶け込んでしまいそうな、酷く曖昧なその風情。
 白く、儚い様は……よく似ているのに。
 その強い意志を秘めて煌く翡翠の瞳が、全く別のものだと教えてくれる。
 それでも……。
 文字を一心に追うルックの、頁を捲るその手を。咄嗟に取る―――と、驚いたようにその身体が竦んだ。
「…ッ、なに」
「うん………消えちゃいそうで」
 怖かったんだよ、とだけ告げる。
「はぁ? 何、それ」
「全然似てないんだけど……イメージ重なっちゃって」
 ルックは、何に…とか聞かないまま、小さく溜息を吐いた。あぁ、呆れてるんだろうなと思う。自分でもおかしいと思うんだから、当然だけど。
 自嘲気味に顔が引き攣るのを見られたくなくて俯きかけた、ところで―――。

「………太陽が呼べば来るんだろ。だったら…いいじゃない」

 ぽそりと耳元に届いた言葉に、驚いてルックの面を見上げる。どこか不本意そうに逸らされた視線と、微かに朱色に染まる耳朶に、その言葉の意味を知る。
「……うん、そうだよね」
 どこかほっとして微笑めば、 「いい加減に手、離してよ」 とつっけんどんに言われて。
「ゴメンね」
「……今更だよ」
 溜息と共に返ってきた台詞に、やっぱり今更の如くホッとした。



2004.02.17



 エロにしてやろうと思って、案の定挫折(爆)。……まぁ、今更だけど。うん、今更。



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