[ 09. お気に入り ]




 ずっと探し続けてた書物に没頭する時間とか。

 静かな場所で過ごす時間とか。


 どれにしたって―――と。
「ひとりで過ごしてる時間って、事だよね」
 目の前の男は、心底つまらなそうに呟く。
「何さ、」
 "ルックのお気に入りって何?"って聞かれたから、真実そのままに答えただけだ。どうして、そんな風に不機嫌になられなければならないのか。
「尤も―――」
 不機嫌になりたいのはこちらの方だ、との意を込めて、こいつが現れてから読めなくなった書物を仕方なくパタンと閉じた。わざわざ答えてやっただけでも、有り難いとか感謝して欲しいね。
「どの時間にしても、あんたが壊すけどね」
「……それでも、気に入ってくれてるの?」
 …………ちょっと、待て!
「どうしてそうなるのさ! あんたの解釈って、一々自分に都合良過ぎ!」
 自覚しなよ、と声を荒げてしまうのも仕方ない。そうかなぁと呟くのなんか、聞いてられない。何言ったって、何度否定したって、こいつの解釈は己の都合のいい方にしか向かないって事くらい、自分でも嫌になるほど何度も経験済みだ。
「でさー、そこで僕のお気に入り、聞いてみようとか思わない?」
「………興味ない」
 そう然りと言ったのに。目の前の男には、そもそも人の言葉を聞く気もないのか、綺麗に無視してくれる。
「僕のお気に入りはね、ルックと一緒に居る時間」
「…………」
「僕だけにしか見せてくれない顔とか」
「…………」
「それから、ルックと一緒に居られる場所も」
「…………」
「でもね、時間とか表情とか場所とかって以前に、ルックだよねv」
「…………あ、そ」
 良かったじゃないか。今、そのお気に入り全部が叶えられてて。
「君のお気に入りって、案外手軽に手に入るんだね」
 僕のはちっともそうじゃないのに…そうぼやくと。
「何言ってんだか」 とてつもなく大仰な溜息と共に、
「これでも、メチャクチャ大変なんだけど?」
 目いっぱい呆れたように返された。


 そんなの――― 「当然じゃないか」 。



2004.02.26



 何ていうか、ふたりともモノにはあまり執着しなさそう…とか? 書きながら、「11・待って」に回そうかとか、書き上がってからは「16・難攻不落」でもいいかーとか、散々悩んで……結局、このまま。



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