[ 14. ありがとう ]




「ありがとう」

 そう囁かれ、不本意ながらも握られていた手を、離されて。
 だけれど、その挙動の不審さよりも、彼が口にした囁きの方に気を取られた。

「……何?」

「うん、何に対してって明確な応えはないんだけど」

 ただ、告げたかっただけだとそう返され、 「あんた、脈絡なさ過ぎ」 目いっぱい呆れてしまう。

「だって、思った時に言っとかないと」

 戦場だからっていうのもあるけど、それ以上に。

「知らない内に……どこかに行っちゃいそうな気がする、から」

 刹那、言葉の意味が把握出来なくて、思わず呆けてしまった。
 そうしてしまうくらいには、いわれも突拍子もない言葉だったと、思う。

「………どこへ行けっていうのさ」

 一体、今の僕にどこへ行けるというのか。
 そもそも―――。
 彼の恐れているのは星を失う事だろうか。
 もしくは、戦力の大幅な落ち込みを気にしての事か。

 それとも……?

「この戦いが終わるまでは、僕は何処にも行かない。星が望んだからね」

 否、行かないのではなく、行けない。
 師の言いつけの所為、そして星が望んだ所為。
 僕が此処にいる理由なんて……それだけの為に、過ぎない。

 だけど………本当に、それだけ?

「うん。そうだよね」

 そう言って、どこか痛ましげに微笑む。笑みなんて、そうまでして浮かべないといけないってもんでもないだろうに。
 そんな風に、無理ばかりしてるのを知っててさえ、尚。
『止めろ』とさえ……言えない。
 だから、そうする彼を見て、僕が痛みを感じるのなんて傲慢でしかないのだ。

「ありがとう、ルック」

「――――――ッ! どうしてっ、」

「ルック?」

「何で………ッ」

 あんたの事を思ってそうしてる訳じゃない―――そう言ったんだ。
 なのに…どうして、そう言えるのか。

「うん、それでも……今此処にルックが居てくれて嬉しいから。それが、ルックであってくれた事に感謝したいから。だから…」


 ―――ありがとう


 そう囁かれた言葉が、ただただ哀しかった。



2004.05.01



 時間軸は、1っぽい。←ぽいって
 ルックは、感謝とか労りとか自分に対する本気の言葉に弱いと思う。というより…苦手? 悪意とかになら5倍返しくらい平気で出来るのに(笑)。



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