[ 16. 難攻不落 ]




 不思議なんですよね―――前置きも何もなく、突然そう言う少年に、サクラは 「何が?」 と穏やかに尋ねた。
「ルックとサクラさんの関係が」
「…………そう?」
「ええ、いつもルックに邪険にされてるのに」
 それでも、ルックは強制退去させる訳でもないし、サクラさんは堪えた風もなく傍に居続けるし?
 本気で頭を捻っているツバキを前に、今は傍に居ない彼の人を思い、知らず口許が和む。
「だって、知ってるからね」
 そう言うと、 「何をですか?」 とツバキは再び頭を傾げる。
「ルックはね、不器用なだけ」
 何も飾らない。
 何も作らない。
 他人の目を気にしない。
 興味のない事には見向きもしない。
 そんな、ある意味潔いと思える態度でさえ、ルックの容姿が邪魔をする。
 例えば。あれほどにルックが人目を惹き易い容姿でさえなければ、周囲の彼への評価や態度は違っていただろうとサクラは思う。
「自分を誤魔化したり、自分に嘘を吐いたりが出来ないんだよ」
 暫しの逡巡を挟んで、ツバキはぽそりと呟いた。
「……でも、それって凄く生き辛そうですね」
「だと、思うよ」
 ルックが人を厭うている訳ではない事は、知っている。
 時折、酷く穏やかな瞳で裏庭で駆け回る子供達を見てたりするから。表情を無くしたような顔は、実は対処に困った時のものだから。
「だけど、僕はルックのそんなとこも好きなんだけど」
 子供でさえ持ち得ている世を渡る術を、知らない訳ではないだろうにそう出来ない不器用さが、酷く愛しい。己を曲げるという事を許さない矜持の高さが、その強さが、何よりも好ましい。
 ずっと、そのままの彼であって欲しいと願わずにはいられないほどに。
「でも、やっぱり……何とかしたいなぁ」
 ツバキの恐らく真剣な言葉尻に、思わず。
「それはルックが嫌がると思うし、僕も困る」
 そう言って、にこりと笑みを深くすると、ツバキの顔が目いっぱい引き攣った。
「……ルックが嫌がるのは解りますけど、何でサクラさんが困るんですか?」
「好きな人は、独占したいっていうのは人の真理だよ?」
 彼自身がそう望むのでなければ、もしくは望んでいたとしても……ひとりで居て欲しいと。彼の傍に誰も居て欲しくないと。浅ましくも、至極自分勝手ながらもそう思ってしまう。
 だから、難攻不落でいてくれないと―――と、いうのが本心だ。

「誰彼ともなく、触れて欲しくないんだ」

 今更だけどね。
 そんなに心広い方じゃないんだよね。



2004.05.07



 サクラ坊さまの恋愛感っていうか……独占欲は、至極子供っぽい? ルックが幸せであればいいとかじゃなくて、ただ傍に居たいだけ。自分だけを見てて欲しいだけ。で、一緒に在れればいいの。
 ルック居なきゃ、生きる屍っぽいくらいにルック依存症。←駄目駄目
 基本的にルックは冷たく他を拒絶するのに対して、坊さまは穏やかに他を拒絶します。



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