[ 18. 陽だまり ]




 生い茂る木々を掻き分け辿り着いた先は、暖かな陽だまり。
 さして広くもないその場所は、外からの視線を木々が遮ってくれて格好の隠れ家っぽい様相でもある。
 ここ数日、肌寒い日が続いていたけど、ホール内に入り込んでくる風があまりに心地良くて。眠気さえ誘うそれに、読みかけの書物を携えて足を運んだ。
 思ったとおり、柔らかな日差しが陽だまりをつくり、頬を掠める風は穏やかで。
「……っ」
 書物に没頭できると思っていたその場所に、昼御飯を一緒にした後姿が見えないと訝しんでいた男が樹の幹にその背を預けている姿を認め、深い溜息が零れる。
 てっきり、現天魁星にでも誘われて鍛錬場にでも行ってるんだろうと思っていたのに。
「・………………」
 だけれど、掛けられる声もなく何の反応も見せない様子に、そっと傍に歩み寄ってみれば。微かに吐息を漏らし惰眠を貪っているのが見て取れた。
 何もこんなところで寝なくても―――と、半ば呆れながら拳二つ分空けて座り込んだ。
 まぁ…少なくとも、寝てる間は邪魔される心配ないんだから。
 伸ばした足の上に本を置き、極力音をたてない様に開く。常なら、そのまま書き連ねられた文字に意識がいくものなのだけれど。
 すぐ傍で規則正しく寝息を耳にすれば。
 段々と眠気が移ってくる気さえして。
 暖かな日の光と優しい風が、そうする気なんて皆無の意識をそっと浚って……いった。



 ゴトッと、重いものが落ちる音を捉え、そろりと瞼を開く。
 そして、視線を向けた先には、小さく舟をこぐルックの姿があった。手にしていた分厚い書物は重力にしたがって土の上。
 ―――ようやっと、寝た。
 囁きにもならない程度で苦笑を浮かべ、心地良さそうに眠っている幼い顔を覗き込む。
 ここの所、軍議だ何だと忙しそうにしていたから疲れが溜まっているのだろうと思っていたけれど。そう言ったところで、大人しく休んでいるような性格じゃないのは、それ以上に知っていた。
 ただ、無理だけはして欲しくない。
 敏いルックの事だから、戦場で倒れるような愚はやらないとは思うが、それでも。
「結構、ギリギリやってるし」
 面倒臭がってはいても、手を抜くなんてしない変に律儀なとこも知っている。
「だけど、それって問題だよね」
 触れるのに躊躇せずにはおられなくなるから…と、甚だ自分勝手な思考に苦笑を漏らして。
 さらりと風に揺れる髪を、そっと指に絡めとる。
 だけれど、癖のないそれは絡むことなく指の間から零れ落ちていく。
 そうしてさえ起きる様子のないルックの様に。せめて、この空間から陽だまりがなくなるまではこの眠りを守ろうと、そう思った。



2004.05.18



 時期的には、もうちょっと前。冬の終わりくらい?
 つーか問題は、とことんアレな坊さまかっ?!



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