秘密 何度目の天間星になるのだろう。 暫し考えて、7度目だという事に思い至る。 「………よく続く」 自分の事ながら、馬鹿じゃないの…とさえ思うっていうのに。 上には上がいるもので。 「よう、ルック! 相変わらず難儀なモンやってんな〜」 右手を上げて、今この瞬間35年ぶり7回目の再会を果したその男は声を掛けてきた。 「…………何しに来たのさ」 大きく溜め息混じりに呟く。 僕が天間星としてその役割をこなした、初回の天魁星がニタニタ笑いながら目の前に立っていた。 その当時、熊とか青いって名前の男たちが、自分達の関係は腐れ縁だとか言ってたような気がするけど……。 真の紋章が度々引き起こす戦争の度に、当然といったように顔を突き合せる羽目になるこいつとの関係は、何ていうのだろう? 「そりゃ、……暇つぶし?」 「………悪趣味」 変わったよね、こいつも。 こんなふてぶてしい奴じゃなかったように思うけど……。 「人間150にもなりゃ、変わって当然。それなりに楽しみ見つけないとな〜」 「…………………そういう事、あいつの前で言ってないだろうね」 離れたところで仲間と話してる現天魁星の事を指して、聞いてやる。 こいつなら、そういう無神経な事やりそうだ。 「そんな人格疑われそうな事、英雄の名を欲しいままにする俺が言う訳ないじゃん。イメージっていうのはある意味大事だろ?」 そのお陰で、美味い飯も食えるし。 「……本当、最低だよね」 130年前はそれなりに可愛げもあったのに……。今は居ない、こいつを知ってる奴等が、今のこいつを見たらさぞかし驚くだろうけど。 昔から今のこいつを知るのは…それこそ限られた者達だけだから。 「何を言う。お前の新しい天魁星は俺の素性知って、『憧れてたんです! 是非城に来て下さい!!』 ってな感じで目をキラキラさせてたぞ」 「又、へらへら笑ってやってただけだろ」 流石、130年近くも旅をやってると、世慣れてくる所為か、はたまた作られた英雄像の所為かは知らないけど、要領いいっていうか人の気を引く術を心得ているっていうか。 130年…否、100年か。 それまでは、自分の生家に度々戻ってたらしいから。 丁度、僕が4回目の天魁星の星を務めてる最中に、こいつはその生家に、自らの手で火を放ったんだっけ……。こいつは、自分で帰る場所を葬った。 ある意味、こんな男がそんな術を持ったら最悪だと思う。 「人の天魁星だっていうんなら、構うの止めなよ」 早く―――進みたいのに。 「彼らに無駄な時間を費やさせて、楽しいの?」 あそこに行き着くまで、後何回こんな時間を過ごせばいいんだろう。 「……無駄だって思ってるのはお前だろ」 「解かってるじゃないか」 だったら、こいつは僕の邪魔をしてるって事か。 「どんなに正義主張しても、結局は自分達の理屈を通したいからやるのが戦争だけど、それを やってる奴らまで嫌ってる訳じゃないしな。だったら、助けてやりたいって思うの普通じゃねーか?」 「………あんたが普通に人を手助けするなんて、有り得ないよ」 何て回りくどい―――。 訳の解からないイライラに、投げる言葉に険が混じる。 「いちいち現れて、その度に天魁星こまして何が楽しいの?」 「こましてってな〜、懐かれるのは俺の魅力だろ」 イライラする。 「その気もないクセに」 目を眇めて冷たく言い放つと、ニタニタ笑みを浮かべていたその面からすっと表情が消える。 「――――――何で、そう思う」 どこまでも闇く冷えた瞳と低い声音が発せられて。漸く、こいつの笑みが消えた事に、ほっとする。 「あんたはどうか知らないけどね、僕は知ってるんだよ?」 何も作る必要なんか、ないじゃないか。 「……何っ―――」 言い掛けて、刹那その顔が固まる。 「知ってるんだよ」 「…………」 「あんたの気持ちなんて、ちゃんと気付いてたって言ってる。生憎とそこまで鈍くはないからね」 恐らく2度目の再会までは―――偶然。 でも、3度目の再会からは、こいつにとって必然だった筈だ。 ―――追って来た、って知ってる。 「あんたね、あからさま過ぎ」 強張った面が泣き笑いの表情を作る。 こいつを英雄だと崇め奉る奴等には、見せられない顔。 僕からしてみれば、ニタニタ作って笑ってるよりは、ずっとあんたらしいと思うけどね。 「何が欲しいのさ」 囁くように小さな声で訊ねてみれば、返ってくる答えはその押し出すように発せられた声音とは違い、更に露骨で。 「………お前が、欲しい」 誰も何も要らないから……。 ただ、たったひとりの―――。 何をおいても譲れない。 そんな存在なのだと。 「―――欲しい」 「……だったら、追って来なよ」 そうしたら、そのうち捕まるかも知れないから。 「…っ、いい歳して鬼ごっこかよ」 「今までしてたんだろ? 130年くらい…?」 ある意味尊敬するけどね、そんな長い間鬼ごっこ続けていられるなんて。否、それ以上に…何かが欲しいと思う気持ちに? あぁ、そういう所は似てるのかも知れない。 「欲しいんだったら、追いかけてきなよ」 捕まる気なんてないけどね…そう言うと、 「畜生っ」 と舌打ち混じりで返ってくるから。 それが可笑しくて笑ってしまった。 「絶対! 捕まえてやるからなっ!!!」 「精々頑張ってみたら?」 言い置いて踵を返す。 背後から 「―――おうよ!」 威勢のいい返事が返ってくるから、鈍感な男…と心の内で呟いた。 ………あんたは知らないだろうけど。 絶対に告げないけど。 僕は初めて会ったあの時から、ずっとあんたに囚われてるよ。 だけど―――それは秘密。 ...... END
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