砂の城







     好き  大好き  ………傍にいて


 もう何度そう囁いただろう。
 石板前で、君の部屋で、僕に用意されてる部屋で。
 屋上で、図書館で、人が入り込めない秘密の木陰で……。
 時には、遠征先やグレッグミンスターの屋敷でも、君を視界に収める度に自然と口を吐いては零れ出てくる想い。
 だけど、そう囁く度に、
「……馬鹿、言ってんじゃないよ」
 呆れた物言いで、辛辣に返された。
 返される言葉は辛辣でも、翡翠の瞳はあまりにも素直で。
 酷く柔らかな色味を見せる。

 壊れそうな儚さは、見たままに。
 だけど、その外観を裏切って余りある、強い意志。
 ……もっと深いトコロで、脆い…寄せては還す波に壊される砂の城の様に。


     好き  大好き  ………傍にいて


 失えない。
 想う事も、願う事も…苦しめるだけだと解ってるのに。

 それでも……


     好き  大好き  ………傍にいて


 告げる事を、止められない。


     好き  大好き  ………傍にいて


 いっそ、囚われて欲しいと。
 この想いに、絡め取られて…そして離れられないように、と。


     好き  大好き  ………傍にいて


 知ってるのに?
 想いも、願いも受け取れない君を知ってるのに。


     好き  大好き  ………傍にいて


 それでも、そう想い願うのは罪だろうか。










×          ×          ×











     好き  大好き  ………傍にいて


 そう囁かれる度に。
 どうして、こいつはこんなに明け透けなのだろうと。
 想いをそう簡単に告げることが出来るのだろう―――と。
 そう、思ってた。
 ところ構わず囁かれるそれは、嬉しいと思う反面恐れをも抱かせる。
 ねぇ、一体いつまで……?
 いつまで想ってくれる。
 いつまで、囁いてくれる。
 こんな他愛もなく呟かれる台詞を失うのが怖いなんて。
 想いも、言葉も、あんたって存在も―――僕には必要ない筈なのに。
 要らない……筈なのに。
 そう思わなきゃ、ならないのに。


     好き  大好き  ………傍にいて


 失いたくないから、それを思う度怖くなる。
 喪失を考える度……身が竦む。


     好き  大好き  ………傍にいて


 それはどっちの想い?
 ―――誰の願い?


     好き  大好き  ………傍にいて


 叶わない想い。
 望んではならない、願い。


     好き  大好き  ………傍にいて


 だけど、想うことを止められない。
 願うこと、それ自体が無駄だと知ってるのに。

 それでも……


     好き  大好き  ………傍にいて


 ―――もう、あんたの声しか耳に入らない。








<了>
2003.06.某日



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