柔らかな風 その刹那、柔らかな風が吹き抜けたのを感じる。 だから、振り向かなくったって解る―――。 「……子供、何で」 小生意気で綺麗な風使い・ルックがそこに居るって事。 「待ち伏せ♪」 最近、石板前を覗いてもたまにその指定席がぽっかりと空いていて、その場に行き合わせた最初の2、3回は何処に行ったんだろうと途方に暮れたりもしたんだけど。 最近漸く、ルックの広くはない行動範囲が解るようになった(威張り)。 此処に居れば逢える―――よみが当った事に満面の笑顔が浮かぶ。 「…………相変わらず、暇なんだ?」 「―――な訳じゃないけど」 でも―――。 「逢いたかったから」 そう言うと、ルックの翡翠の瞳がすっと眇められる。結構感情が表情に出易いって自覚ないのかな〜。 「ここって、結構お気に入りだろ?」 風が強く吹き抜けるその場所が。城の中って、扉も満足に着けてやしない割に空気が滞りがちだから、居心地悪いだろうとは思ってたし…。人が多い時間帯を避けて来るって事も、ちゃんと解ってる。 「…………解ってるんなら、邪魔しない」 「邪魔なんてしてないだろ」 そうだ、邪魔なんてする気、全然ないからな! 「ただ、傍で一緒に風に当るだけだから。そういうのって、邪魔するとは言わないだろ」 ルックの邪魔にはならない筈だ。 「…………充分、邪魔なんだけど」 ウンザリとしたような声音が溜息と一緒に零れる。 だけど、ルックのそれって、許容してるっていうのと同義なんだよな。 結構、俺には甘いんだって事も、解ってるから。 「ルック、暇そうだから付き合ってやってんだよ」 解っててそう言ってみる。本当に不本意そうな表情を浮かべて、そうして又ひとつ溜息を吐く。 「―――いいけどね。五月蝿くするとここから落すから」 貰って当然の(脅し込みの)許可に、 「俺がいつ五月蝿くしたよ」 ついでのようにひと言返した。 「自覚、しなよ」 「してるだろ?」 色んなものを背負った身で、子供のままじゃ居られなくて…そして、必死になって造った虚像にルックだけは騙されてくれない。 それは、俺のこれまでの苦労を無に返すもので、ちょっとむかついたけど、それ以上に嬉しかったりした。 だから、ルックの傍でだけ、俺は自然体で居られる。 何も―――造らないでいい。 これ以上、居心地のいい場所が他にあるだろうか。 「………もう、いいよ」 呆れを含んだ翡翠が、俺から外れてゆっくりとトラン湖に向けられる。 髪を衣服の裾を浚う風はただ優しくて……。 そして、水面に還っていく。 音もなく、静かに流れるように―――。 そうして、真綿に包まれたような静かで優しい時間は、風と共に過ぎて行く。 それが、俺が大好きな日常の一こまだったりする。 ...... END
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