想いの風 「真に望めば、願えば―――叶う」 と、子供に言ったのは、僕だ。 だけど、その言葉を僕が信じてた訳じゃない。 だったら、僕が信じようとしてたのは……。 信じたかったのは………、何? 師が門を開いて辿り着いた先は、全く見覚えのない開けた場所。 「レックナートさま?」 此処は―――と問いかけて、ふっと馴染んだ紋章の共鳴を拾う。 どうして………? その感覚に、我知らず右手の己が紋章を見やる。 「星の願いというのは、どうしてこんなにも強くあるのでしょうね」 師のどこかホッとした様な物言いに、指し示した先に視線を転じると―――。 「……ザツ、」 本当ならなるべき筈の紋章の真の姿はそうとは成らずに、彼らザツと幼馴染の両の手の甲に淡い光を湛えたままあった。 「どうして、」 「彼らがそう望んだからでしょう。そして、信じた。………星の加護をも味方に付けて」 望み、信じれば―――。 そんな御都合主義みたいな事、本当に有り得ると? だけど……目の前で明かされるそれは…。 「彼の義姉も、彼らの家で待っています」 「…………そ、うですか」 生きていたんだ、彼女は。石板の名が消えていたのは、星の任を拒んだからに過ぎなかったのか。 そうして。 本来の姿へ還ろうとする紋章の力をも抑え込んでしまう程の強い意思。 ただの人間である彼らに、それが成せたのなら。 「レックナートさま……。人の思いというのは、神の思惑をも越えられるとお思いですか?」 「あなたはどう思ったのです?」 「僕は………」 「それと信じてしまう自分が恐いですか?」 怖い? 僕が…? 「ルック、貴方がその目で見てきた事を信じればいいのです」 それこそが、恐らく真実だから。 「………ックナートさま」 「きっと、大丈夫です。あの子は貴方の望む未来をくれるでしょう」 「……でも、」 「信じる事、想う事、歩みを止めない事―――それが大事なのでしょう?」 そう、それは子供そのままの姿だ。 そんな子供だから、僕は拒めなかった。 3年前のあの時から、きっと、ずっとそうだった。 「行きましょう」 何処へとは……やはり聞かない。 だけど、きっと何処へ行こうと子供は―――ソウは来るって、そう信じてる。 今でも、誰も何も信じないけど。 ソウの言葉だけは、信じたいと思ってる自分を知っている。 あぁ、僕は信じたかったソレを、3年前のあの時にはもう既に見つけてたのか。 だから―――。 「さっさと…見つけにお出で?」 風を送ろう。 君だけに、届く―――想いの風を。 ...... END
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