彼が惚気ない理由 告白 〜その後〜 ここ最近、同盟軍内で話題を独占したのは、某英雄と魔法を使わせたら軍内一との誉れも高い魔法兵団長そのふたり。 元々は、ツバキら軍主の要らぬお節介。 しかし、何やらそのお節介が吉と出たのか凶と出たのかは本人達にしか解からないこととはいえ、兎に角ばたばたと文字通りそのふたりは所謂……恋仲へと発展した。 本人達が、一番 『青天の霹靂』 状態だったのではないか―――とは、シーナの言だったりする。 ―――言い得て妙。 ◇ ◇ ◇ ところはブラックベリー城、いつでも人が途絶える事のない酒場。 「おーい、ツバキ。こっちこっち」 酒場にひょっこりと顔を出した同盟軍軍主であるツバキは、その一角を陣取っているシーナやビクトール達に呼ばれた。 「あれーっ、サクラさんは?」 席に歩み寄って、自分の捜し人であったサクラ・マクドールの姿がその場にないのに、眉根を寄せた。 「やっと、シュウさんから解放されたのに」 シュウに執務室へと強制連行される際、ビクトールに酒場に促されるサクラを確認していたツバキは、シュウの上層部作戦会議兼お小言を適当にこなし、ここまで駆け付けて来た。 「いろいろ、聞きたいことあったのにー」 子供のようにむくれるツバキに、フリックが苦笑する。 「ルックと飯食いに行くんだって、酒一杯飲んだだけで出てったよ」 「…………んーじゃ、今日はもう確保出来ないって事か〜」 さも残念そうに呟く。が、その台詞は言い得ていた。 「仕方ないや〜。出来たてほやほやの恋人同士の中に割り込んじゃ、やっぱりヤバイからね」 何しろ、相手があのサクラさんだし―――。 そう言うツバキに、その周りに陣取っていた連中は口にこそ出しはしないが、うんうんと頷いていた。 命が惜しければ、ふたりで居る時には近寄らない事。 皆が皆、本能でそう悟っていた。 そういえばさ、とぼそっと呟くように口を挟んだのはシーナ。 「サクラってさ……こういう状況では、惚気そうだと思うんだけど」 誰か被害受けた? そう問われ、それに頷いた人はなく。しかし、その一瞬後 「あっ、それだったら! 僕、知ってる!!」 威勢良く手と声を上げたのは、ツバキだった。 「何を?」 「うん、2,3日前サクラさんに聞いたから」 「―――惚気?」 「……より凄いやつ」 「…より凄い?」 「うん、これ聞いたら惚気なんて可愛いって思えるくらいに、凄いやつ♪」 ツバキの思わせ振りな物言いに、一同が一斉に首を傾げる。 「凄いって……何が凄いんだ?」 「あのね、ルックと上手くいってますか?って聞いたんだよ」 怖いもの知らず―――ツバキの台詞を聞いた者、皆がそう思ったのだとしても、それは仕方ない。 いい意味、あのトランの英雄と渡り合えるのは、このツバキかも知れない。 「そしたら、サクラさんにっこり笑って――― "惚気るなんて、そんな勿体無いことしないよ"―――って」 「…………はぁ?」 勿体無い??? 何が一体勿体無いんだ?????? 皆の頭の中で、疑問符が浮かぶ。 「それって……聞き間違いじゃねーの?」 皆の疑問を、シーナがツバキにぶつける。 「僕もそうだと思って、勿体無いって何ですか?って聞いたよ」 憮然とした様子でしかめっ面をするツバキに、それもそうだよなとシーナが頷く。流石にそこまで間抜けてはいないだろう。 確かにそれっぽくあるのだとしても、一応ツバキは一軍を率いる将軍なのだ。 「そしたら、サクラ何だって?」 シーナの後を継いでフリックが問うと、眉間の皺はそのままに、それでも口を開いた。 「"ルックのいいところも可愛いところも、僕だけが知ってればいいからね。惚気るなんて勿体無いことしないよ?"―――って」 一気に言い終えたツバキは、 「あれっ?」 と周囲を見回す。 何やら、乾いた笑いを浮かべる者や、引きつった表情を隠しもしない者、それに疲れきった様子の彼らを目の当たりに小首を傾げる。 「どうしたの?」 「…………いや、流石サクラというか」 「最強っていうか、最凶っていうか……」 唸る男共をぐるりと見回しながら、目を丸くするのはツバキで。 「サクラさんって、凄いよね」 感嘆に近い声を上げる自軍の総大将を、何事かと見やった男達にツバキは興奮した態で言葉を繋ぐ。 「たった一言二言の台詞で、名だたる兵共をひとり残らず唸らせる事が出来るなんて!凄いよね!!」 「…………………」 素直に感動するツバキを前に、確かにその場にいた全員が固まる。 ある意味一番凄いのは、サクラをそんな風に尊敬出来る、この軍主なのかも知れない、と。 ◇ ◇ ◇ 「ねぇ? ルック?」 いつもどおりの石板前で、これまたいつもどおりに凛とした風情で立ち尽くす風使いに歩み寄ったツバキは、付近にサクラが居ないのを確認してから恐る恐る声を掛けた。 「……何、何か用?」 「うーん……、用っていうかね聞いてみたいことがあるんだけど」 含みがあるような物言いに、ルックは訝しげに眉根を寄せた。 「…………何さ」 「えーっとね、……サクラさんと上手くいってる?」 一瞬、絶句したルックは、それでも淡々と言を放つ。 「何でそんな事、君に聞かれなきゃなんないのさ」 「だって、気になるんだもん!」 気になるから……って、普通そんな事聞かないだろう?とは、この手の経験が皆無のルックに解かろう筈もない。 「…………言いたくない」 微かに頬を染めて俯くルックに、ツバキは 「えーっ!」 と抗議の声を上げる。 「何でっ! 聞きたい、教えて!!」 まるで子供がダダを捏ねてる様にしか見えないツバキの態度に、ルックはばっと面を上げてツバキを睨んだ。 「サクラがっっ! …………こういう事はふたりだけの秘密にしとこうね―――って」 語調は強いが、そう言うルックの顔は真っ赤で。 流石サクラさん、ぬかりなし! ツバキは又一層、サクラを尊敬する―――という深みに嵌った。 これはこれで、同盟軍の日常だったりするのだ。 …………平和過ぎ。 ...... END
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