… 諸注意 … 幻水3が発売されるまでの幸せな月ノ郷設定 ・ 時間的には、幻水2時から15年後――幻水3での時間軸です。 ・ この話における「炎の英雄」は、天魁星という設定です。 ・ 当サイト内における『ただひとりの…』『君がくれたもの』『存在理由』の続きに なります。読まれてなくても、全く(多分…(汗))支障はありません。 ・ 『存在理由』に関しては、幻水3が発売されるまでの期間限定であった為、 リンク解除しております。 ―――以上のことをふまえた上で、お進みください。 |
両雄並び立たず 「―――何であんたがこんなところに居るのさ……」 ウンザリとした口調で言葉を掛けると、彼は嬉しそうに笑った。 15年ぶりになるのか……。 先の"始まりの紋章"を軸として起こった戦争から。 この男と会わなくなってから。 長いようだけど、永久とも思える時間を手に入れた僕らには、瞬きほどのそれ。 「やっと会えたね」 それはそれは嬉しそうな笑顔で、見つめられて……自然赤らむ顔が上げられなかった。 愛用の棍を担いで己の横に座る男を見ていると、あれから15年も経ったなんて信じられない。あの頃も、こうして石版の前で顔をつき合わせていたし。 勿論、己もそうなのだが、この男――サクラ・マクドールの外見はあの頃と全く変わっていない。 「そう言えばさ―――」 ふと思い出したというように、サクラは微かに眼を細めてこちらに視線を向けてくる。 「何さ」 何となく、含みがあるようなその物言いは昔と変わらなくて、自然と眉間に皺が寄ってしまう。 「……半年くらい前かな、この近くの森で今の天魁星と会ったんだけど……」 「…………………………」 サクラの台詞に、思わず腰が浮いてしまう。が、腕を掴まれ、再びその場に座らせられる。 「何で逃げるの?」 「……てなんて、ないよ」 そうは答えながらも、自然と腰が引ける。サクラは絶対―――知っている。きっと有ることないことあの男に吹き込まれたんだと確信出来てしまう。あの、50年前には英雄だったとかいう男なら、少なく見積もって事実に5割は脚色してそうだ……。 サクラの笑顔がそれを、如実に物語っている。 怒りを笑顔で表せるなんて、レックナート様しか居ないと思ってたんだけど……。 「そう? ―――でね、そのふざけた男が、ルックは自分のものなんだ云々なんて抜かしてたんだけど…?」 だから、どうして、笑いながら怒るなんて芸当ができるのさ。 「…そんなこと、ある筈ないだろっ」 「うん、有り得ないって分かってたんだけど。でもね―――」 一端言葉を切って、じっとこちらを見つめてくる。 その視線だけで、縫い止められてしまったかのように動けなくなってしまう。 「……何でだかあの男、詳しかったんだよね」 君の躰の感じる場所……とか? ぼっと顔と言わず身体と言わず、至る所から火が出たように熱くなる。 「〜〜〜なっ! なっ! 〜〜何、言ってのさ!!」 「僕しか知らない筈だよね?」 思い切りにっこり微笑まれて、沸点に達した怒りのままに 「――当たり前だろ!!!」 そう怒鳴った直後、墓穴を掘った己に気付く。 何でいつもいつもこいつを助長させるような墓穴掘る! 隣に座っているサクラは、さも嬉しそうに満面の笑みを向けてきたりするし。己の事ながら、全く腹立たしい。 ……今更って気もするけど。 そう考えて、思い切り溜め息が零れた。 「……成長してないってこと?」 我知らず、口を突いてでたらしい台詞を聞き取ったサクラが、小さく吹き出した。 大概あんたも、失礼な男だよね。 「―――って訳で、今回もちょくちょく寄らせて貰うから」 「……あの、天魁星に手を貸すの?」 アレは、サクラに(ある意味)よく似た男だと思う。いろいろな意味で―――。 本人達には絶対言わない――否、言えないが。 「違うよ、今回はね。あの何しでかすか分からない天魁星を、ルックから遠去ける為に来るんだよ?」 「…………何しでかすか…って」 「さっきね、一応形式的にと思って挨拶して来たんだけどね。思いっ切り!挑戦状叩き突けられたんだよね」 「……は?」 「文字通り挑戦状! 『ルックは貴様には渡さん!!』 ってね」 その時の様子を声音まで真似て再現するサクラを前に、ルックは頭を抱えた。 「……あの男は…………」 そして、目の前のサクラをちらりと見やる。 つくづく……。 「天魁星って……面倒だよね」 「で、モノは相談なんだけど?」 「…………何さ」 「あの天魁星、ツバキみたいに部屋用意してくれないんだよね。今夜泊めてくれる?」 言われた言葉の意味を解して、 「絶対、駄目!!!!!!」 ルックは力いっぱい頭を振った。 「―――ルック?」 「駄目だからね!」 恨みがましい眼でサクラが睨み付けてくるのに、ルックは真っ赤な顔をしたまま「駄目」を連発する。 「じゃあ、僕はどこに寝るの?」 「〜〜〜ここ、貸してあげるよ」 「ここって………ここ!」 石版前の冷たい石畳を指差され、サクラは不平の声を上げた。 「あんまりだよ、ルック」 そんなに僕と居るのが嫌なの――? 瞳を覗き込まれ、一瞬息を呑む。 「…………………そん…なんじゃ、ないけど……」 15年前の別れ方が別れ方だった所為で、密室でふたりきりになるという状況に、自分でも可笑しいんじゃないかと思うくらいに動揺している。 離れる時間を…逢えない刻を思って、ただ一度だけ―――触れることを許した。 サクラを受け入れた。 勿論、そのことを後悔してる訳ではないのだが……。 ―――恥ずかしいんだよ!!! そう白状してしまうのが、一番いいのかも知れない……が、如何せん、自尊心だけはやたらと高い己の性格が、それをし難くさせている。 15年前は……かなり状況に流されていた感が、諌めなくて。別れる時だって、ちゃんと顔をつき合わせていたにも関わらず、今頃になって何故こんなに羞恥に赤くなったり青くなったりしなければならないのか。 「可愛いよね、ルックって」 「〜〜〜どこが!」 「全部vvv」 可愛い……? 素直じゃないし、悪態ばかり吐いてるって自覚はちゃんとあるし、可愛いなんて言われても、全っ然!嬉しくない!! そもそも、可愛いなんて言われて喜ぶ男がどこに居る。 「…………一言、言っとくとね」 「うん?」 「今の天魁星のアレは、あー見えても馬鹿じゃないからね」 見掛けはかなり、それっぽいのだが。くった歳の分は、それなりに利口であるし策士でもある。50年前には『英雄』とまで謳われた男なのだから。 「あんたが部屋与えられてないっていうんなら、それは業と―――だよ」 「―――うん、そうだろうね」 あっさりと同意するサクラに、呆れてしまう。 「それ、解かってて乗るの?」 「だって、―――以降だと監視厳しそうだし?」 今回は、…15年ぶりの再会だから。ほんのひと時、時間をくれる…って事だよね。 そう言うサクラに、むっとしてしまう。 「解かってて…」 「きっと、明日の朝一番で部屋用意してくれると思うよ」 「…………………怒鳴り込んで来て、ね」 その光景がありありと眼裏に浮かんで、思わず大きな溜め息が零れた。 「ルックに逢うのに、いちいち許可なんて取らないけどね」 逢いたいと思う気持ちが、触れたいと思う時が―――僕にとっては全てだから。 「15年間も我慢したんだよ?」 君が駄目だって言ったから―――。 他人には絶対に見せない笑みで微笑まれ、優しくそう囁かれ、それらに最早頷くことしか出来ない。 絶対に告げないけれど。 逢いたいと……触れたいと、己もそう思っていた。 15年の間―――ずっと。 認めるのは癪だし、そう彼に告げてやる気なんて全くないけど。 逢いたい時に―――逢える。 触れたい時に側に…居てくれる。 そんな単純なことが、こんなに嬉しいなんて。 「―――ルック?」 前触れもなく立ち上がると、サクラは 「どうしたの?」 と問うように名を呼んできた。 「……部屋! 行くんだろっ」 恥ずかしくて顔見ることも出来ない。自然と荒くなってしまう声音に、だけれどサクラは 「うん」 と嬉しそうに返事を返してきた。 又暫く、同じ時が過ごせるね――。 歩を進めながら、サクラから小さく問い掛けられて。 …………………ん。 そう返しただけなのに。サクラはやっぱり満面の笑顔を浮かべていた。 何時まで一緒に居られるか解からない。 だけど……。 ほんの僅かな時間でも、ほんの一瞬でも。 君の存在を感じていられたら……それだけでいい。 それだけで、きっと僕は立って居られるから―――。 ...... END
|
―――後日談 「一体なんなのさ!君達は―――!!!」 今日も砦に響き渡るルックの怒声と、それに伴うかのように襲いくる風圧に耐えかねた砦の壁がミシリと悲鳴をあげる。 殆ど、日常イベントと課したそれが、今はこの軍の頂点にいる『炎の英雄』という呼称を持つ男と、その麗しい外見には似合わない毒舌を吐き散らしまくりの風使いの魔法兵団長、それに先日ヒューゴが連れてきたまだ記憶に新しいトランの解放戦争でリーダーを務めた『トランの英雄』、その人等が起こした ものともなれば、最早人である者達に止められる筈もない。 「今日も、我等が麗しの風使い様は凛々しいな」 ルックの起こした魔法の被害が及ばない壁面に隠れ、他の宿星がほざくのをヒューゴは溜め息混じりで聞くとはなしに聞いていた。 「……俺の所為か?」 そもそも、『トランの英雄』その人を誘ったのは己である。 英雄がふたりも揃ったとなれば、軍の覇気が上がる―――単純にそう思ったのだ。 しかし、両雄並び立たず―――とはよく言ったもので。 顔を合わせた瞬間から――どうやら顔見知りだったらしい――ふたり共、お互いの敵意を剥き出しにしていた。 そうして、その翌日から石版前で鉢合わせしては陰湿な言い争いになり……最後には石版守の風使いから切り裂きを浴びせられるのだ。 毎日毎日―――。 飽きることもなく続けられるそれに、見掛けよりは随分とナイーブなヒューゴは 「自分の所為なのか」 と、その度に悩んでいる。 いや、それよりも……この砦があのルックの魔法にいつまで耐えられるのか……。 その心配も無きにしも非ずで、心休まる暇がない。 一体何が原因で彼らが争い、ルックがその度に激しているのかが解からない限り、自分の心労は重なるばかりかも知れない―――。 争いの種を聞くに聞けず、それ以上に誰に聞いていいのか解からず、ヒューゴは今日も頭を抱えていた。 戦争以上に彼を悩ませるこの光景は、戦争終了時まで続く。 ...... END
|