そこに愛はあるのか ※シラン坊宅の、2主の名はユッカです ―――最悪。 それは、恐らく僕でなくても、解放戦争に参加した奴らの9割は思ったことだったろう。 自己中心、唯我独尊、厚顔無恥―――この手の言葉を全部集めても、こいつを現すことなんて出来ないに違いない。 シラン・マクドールとはそういう迷惑極まりない男だった。 それが……。 「……何であんたが、居るのさ」 剣呑さも一際に睨み付けてやったっていうのに、僕の正面で、顔面総崩れでへらへらしてる男にそれが効いたとは到底思えなかった。 「何でって、ルックに会いに来たに決まってるじゃないか」 馬っ鹿だな〜と、それはそれは嬉しそうな顔で言われて、むっとした。 でも、この男相手に真面目に怒るのは、それこそ無駄だと知っている。 そう、体力気力の無駄遣いだ。 3年前でそれは嫌々ながらも、学んだこと。 だから、最終的には近づいて来る度に、『眠りの風』を送ってやった。こいつに魔法を使うのは勿体無かったけどね。 「それ以外で、俺がこんなムサイ所に来る理由なんてないだろう」 …………相変わらず、言うよね。 あんたの隣で、軍主が引きつった笑み浮かべてるの、解かんない? ………解かんないだろうね、あんただから。 解かってて言ってるっていうんだったら、もうちょっと見直してもやるんだけど……。 思わず零れた溜息に、シランは目敏く反応する。 「何だ、ルック! 何か悩みでもあるのかっ?」 悩み? ……あんただよ。 そう言ってやりたいのは山々だけど……こいつの腐った頭は、自分のいい様に物事を変換するって事、嫌になるほど知ってるからね、下手な事言わないけど……。 やり手で有名な軍師のシュウでさえ黙らせる口論術を誇る僕に、口を開くことを躊躇させる輩なんて、あんただけだよ……きっと。 どう贔屓目に見たって、馬鹿なのに…。 どうして勝てないんだろう…っていうか、馬鹿相手だから勝てないのか? 「3年前、いきなり消えてたから探してたんだぞ」 そんなの、当たり前じゃないか……。いつまでも、馬鹿の相手なんてしてられないよ。 こいつの事だから、絶対―――。 「俺様と一緒に、めくるめく愛の王国の礎となって、トランの国を作って欲しかったんだがな」 …………ってな事、言うと思ってたんだよ……。想像通りじゃないか。 思考回路が単純なんだよ、あんた。 シランの斜め後ろで、シーナと軍主のユッカが呆れたようにぼそぼそと話しているのが視界の端に入る。 シーナは前回の戦争時にもこいつと顔付き合わせてたから知ってるだろうけど……。流石にユッカは困惑気味の顔してるよね。 言っとくけど、あんたが拾って来たんだからね(怒)。 何とかしてよ、と言いたいのだけれど、ユッカ程度じゃこいつをどうこう出来る訳ないのは解ってるから。 っていうか……だったら、こいつの暴走、誰か止められるヤツ居るのか……。 そう考えて、その答えが出ない事に気付いてしまう。 それって………ある意味、最低な結果じゃないか。 「悩み…あるけどね」 吐息混じりに言ってやる。 3年前の二の舞は、はっきり言って御免こうむりたい。天魁星じゃないんだから、それも可能じゃないか? 「何だ、言ってみろ。俺様が解決してやる」 そうだね、こればっかりはあんたにしか出来ないよ。 「じゃあ、顔見せないでよ」 ここに、僕の側に来ないでよ。 調子狂わされるのなんて、冗談じゃない。 ただ、冷たく淡々と言い放つ。 「――――――ルック、お前…」 大きく目を見開いて、愕然とした表情を浮かべるシランに、刹那―――小さく鼓動がひとつトクンと跳ねる。 ―――何で…? だけど、次の瞬間には唐突に強い力で抱き寄せられて、シランの腕の中に居た。 何時の間に!! っていうより、不覚! この僕がこともあろうに、こいつの挙動に動揺して、その上いとも簡単に距離を詰められてっ!!! 「ちょ…っ!!」 慌てて押しのけようとして腕を突っ張りかけると…。 「―――なんーって可愛いんだ!」 予想だにしなかった台詞が返ってきて、その台詞の不可解さに動きが固まる。 「っ……はぁ?」 思わず顔を見上げると、感無量といった態のシランの顔。 「俺様がこんな場所に来て、他の奴らの視線を一身に集めるのに耐えられないんだな。そりゃー、仕方ないんだルック。俺様くらいの見てくれ良し、頭脳明晰、カリスマ性抜群ともなるとだな、誰だって放って置けないだろ? しかーしだ、そんな事心配するな! 俺様はルックの事しか見てないんだから。いや、嫉妬は愛されてるって事を実感できるから嬉しいんだけど! そんな俺様の満足より、ルックの繊細な心が傷つく方が問題だからな」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!! ―――ちょっと、待てっ!!! いっ、一体全体あんたの頭の中、どうなってんのさっ!!! どうやったら、あの台詞を!そこまで曲解できるっ??? 絶対変だ! おかしいっ!! おかしすぎるっっっ!!! そこまでいくと、異常じゃないかっ?! 頭の中では言いたい事がぐるぐる渦巻いているのに、唖然とした状態から未だに抜け出せなくて、開いた口からは唸り声ひとつ出てきやしない。 「…………アレって、どうなの?」 脇で僕らをじっと見てたらしいユッカとシーナが、引きつった顔を浮かべている。 ――――――っ! こいつのペースに乗せられて、外野がいる事をすっかり失念していた。 つーか、傍観してないで止めなよ!!! 「………進展してる」 ぼそっとシーナが呟く。 何がっ! 進展してるっていうのさ! 「進展? アレ? でも、恋人同士なら普通のスキンシップじゃないの???」 ―――誰が、誰と恋人同士だってっ!!! 「それは、シランがひとりで宣言してるだけであって、ルックが認めてる訳じゃない。その証拠に、3年前は肩を抱くと肘鉄、キスしようとすると切り裂き。最終的には近寄っただけで、眠らされてたからな…、シランの奴」 「…………そう、なんだ」 当然だろ! こいつは何かって言うと人の身体に触りたがったり、抱きついてきたりして鬱陶しい事この上ないんだから。 レックナート様からこいつの星のひとつとして、その本拠地に遣わされたその晩に、部屋に連れ込まれて服まで脱がされそうになった。自衛の手段としては、当たり前だろ。 っていうか、シーナもそれが解ってるんだったら、今のこの状態を何とかしなよ! 「まぁ……ルックが側に居なきゃ、あそこまでバカじゃないし……多分、だけど。周りなんか関係ないってくらいの自己中心野郎だけど、腕は立つし、魔法もそれなりに強かったよーな……多分」 そうだよ、だから無性に腹立たしいんじゃないか。 「…………それって、問題大有り?」 今頃、やっと解ったのか、この小猿はっ!!! この状況から解放されたら、自分の犯した罪の重さをその身に嫌というほど味合わせてやらなきゃ、気がすまない。 「何を言う! ルックの側に居て俺様が馬鹿になるっていうんならな! それはルックの全てが、俺様を酔わせてるからだ」 必死に押し退けようとしているのに、びくともしないシランの腕の中で、声高らかにそう宣言するこいつの言葉を聞いて……再び身体から力が抜けていくのを感じた。 …………もう、最悪。 最近の僕の定位置といえば、真に不本意ながら本拠地の屋上だったりする。 「………冗談じゃないよ」 何かって言うと、あれやこれや理由をつけて、あの傍迷惑な自己中心馬鹿男は此処に居座って…。それだけならまだしも、事ある毎に石版の前に現れてはニタニタ笑いながら、―――もしくは陶酔しきった表情で、腐ったような台詞を吐き続けるのだ。 そんな状況を甘んじて受けているなんて冗談じゃない。 だからと言って、あの傍若無人を絵に描いたような男を、どうすれば引き剥がせるのか解らなくて、結局こちらが身を隠す羽目になってしまう。 本当………。 「冗談じゃない」 一体いつまでこんな事を続けないといけないのか…。 そもそも、自分が何故こそこそ隠れるような真似をしなければならないのか。 あぁ、もうどうしようかなっ! いっその事………真なる紋章の切り裂きでも見舞ってやりたいくらいだ。 …………………駄目かな……やっぱり。 あいつの事だから死にはしないだろうけど、瀕死の重症でも負ってくれて、暫く石版前に来なくなれば………。 その間に、戦争が終わってれば? 「………いいかもしれない」 恐らく、そうすれば2度と逢う事もない、かも知れないし…。←自信なし だけどアレの発動には、それに見合うだけの状況が必要だ。 ハルモニアのあいつでも連れてこようか………っていうか、その場合、どっちに紋章喰らわせればいいんだ??? ………あれ…? 微妙に論点ずれてない、か……? そもそも、あの馬鹿引き剥がすために、そこまで労力使うのも面倒だ。 「…………どうしよっかな…」 さて―――と、膝を抱えて座り込む。 だけれど、どう考えてもアレをどうこうするなんて事に、いい案が浮かぶはずもなくて。 結局、夕刻前に石版前に戻った瞬間、あの馬鹿にそれは見事なまでに捕獲された………。 「誰か何とかしてよ……」 自分がこんなに他力本願だとは思わなかった。 「ルックv」 翌日、又もや朝一番に石版前に訪ねて来ると同時に、ずいっと顔を近付けてきたシランに、ルックは思わず一歩後退してしまう。 ここ最近、いつも思ってしまう―――不覚だ! こいつにこれ程までに簡単に間合いを詰められるなんて。 いくら寝起きでぼーっとしていたとはいえ。 こいつに僕が勝ってるのは、感覚とスピードだって自負があるからだけど。 だけど、こいつの言動はあまりにも非常識過ぎて、未だに予測すら出来なくて、たまにこんな風な位置に詰め寄られていることが少なくない。 それが、凄く悔しくてたまらない。 「なっ、何さ!」 せめて態度だけは普段どおりに―――とは思う。 だけど……。 「顔色悪いんじゃないかっ?! ちゃんと食ってるか」 どこか心配そうにそう言われ、 「俺様の子を産む大事な身体なんだから、」 等と又訳の解らない事をほざく始末。 一体全体僕にどうやって子供を産めっていうのさ!!! ―――愛さえあれば叶わない事なんてないv …………返ってきそうな台詞も、その時の態度も簡単に想像が付いて、何だか空しくなった。 どうして、こんな男の一挙手一投足までもを、解ってしまう! 否、それは僕がこいつを理解してるとかそういう事じゃなくて、こいつがただ単純だからだ。 「…………………」 何か言うと脚色率200パーセントの割合で返ってくるから、もう何も言わないのが一番だろう。 っていうか、どうしてそこで人の顔に触る! 両手で頬を包み込むようにされ、おまけに上向かされて見詰め合う形にされるなどという奇行に走られたら……普段通りの素振りなんて、絶対無理だ。 何でこいつはいつもこうなんだ! 「だーっ! 触るな! 近づくなっ! ―――視界に入るな!!!」 ここまで言われたら、普通はひくだろ。なのに、どうしてそこで抱き締める!? ぞくりと肌が途端に粟立つ。 「そうか、疲れてるんだな! よし、任せとけ。この俺様直々に愛しいルックの為に何かこさえてやるからな」 「〜〜〜〜〜〜少しは人の話聞け!!!!!」 ……って。 「あんた……作れたの?」 3年前も見たことなかったし、今回だって遠征の度回ってくる筈の食事当番を誰もこいつにさせようとはしなかった――賢明だけどね――から、作れるなんて知らなかったけど。 「何を言ってる、ルックv この俺様に出来ないことなんてある訳ないじゃないか」 はっはっはーと如何にも当然だろみたいに大笑いされ、驚くどころかやはりむかついた……。 「じゃ、早速釣りにでも行くか。ルックの為にv」 「……………魚嫌いだから」 「じゃ、狩りにv」 「肉も嫌いだからね」 「―――ルックっ」 「何さ…」 「ちゃんと好き嫌いせずに食わないと、丈夫な子が産めないだろう!」 「……だから、僕は子供なんて産めないよ!!」 いい加減、どうにかしてよ! その茹った頭の中身! 「何を言ってる。愛さえあれば、不可能なことなんてないだろうv」 想像したままの台詞が返ってきて、その事実と相変わらずの思考回路に頭を抱え込みたくなった。 ……………沢山あるだろう。 っていうか、そもそも愛なんてないだろ。 「ま、いいから待ってろよv 俺様の愛をそのまま形にして、ルックに食わせてやるからな」 ……………余計要らない。 でも、こいつがこの場から立ち去ってくれるのは有難かったから、おざなりに頷いて手をひらひらと振ってやった。 遥か彼方から、こちらを見ていたらしい野次馬共のおお〜っというざわめきが響いてくる。 「ルックがとうとう、シランの申し入れを受け入れたぞ!」 「世紀末だ……」 って、何なのさ、一体! 受け入れられる訳ないだろ、こんな存在自体が不可解なヤツ! ……大概、暇な奴等が多いよね、ここも。 もう何でもいいよ、別に…。 幼少の頃からレックナート様の作った訳の解らないモノに舌が慣らされてるこちらとしては、腐ったものでない限り食べる事も出来るだろうから…ね。 「よーし、待ってろ、ルック! 今こそ、俺様の愛を見せてやるからな。いざ行かん、釣り場! 目指すはサーモン!!」 ………魚は嫌いなんだって言った筈だけど! それからシラン・マクドールからユッカ経由でレストランに呼び出されたのが1週間後。 その間、いつあいつが現れるのかと内心冷や冷やしながらも、戦時中にこの状態はどうか…という程に、それはそれは文字通りゆったりとした日々を過ごすことが出来た。 ユッカに遠征に出ないのかと聞くと、 「シランさんが同行しない遠征でのルック連れ出し禁止令が、シランさん本人から出てるんだ。それに、出てる間のシランさんの動向が気になってv」 と、暢気な台詞まで返ってきて。 どこまでも傍迷惑なヤツだと、今更の如く認識した。 「シランさん、食事が出来たからレストラン来てーってさ」 その程度の呼び出しで、軍主使いっ走りに使うなよ…というか、ユッカも使われるなよ……。 でも、流石にユッカに呼び出されたら、無下に断ることも誤魔化すことも出来ないけど…。こいつはこういう状況を結構面白がって見物してるから、こちらとしてもいい迷惑だ。 あぁ、もう…天魁星って―――(吐息)。 案内されたテーブル脇で、満面笑顔のシランが立っているのを見て、思わず逃げ出したくなる。 考えたら、自分からこいつの傍に寄ってく…っていうの、初めてじゃないか…。 「さぁ、ルックv 食え」 そうして、目の前に出されたのは―――。 湯気のたったスープと、色とりどりの野菜で作られたサラダ。 っていうか…………何で、スープとサラダ作るのに一週間かかる??? そりゃー、沢山出されても困ったんだけど。 不眠不休で、3日掛かってサーモン釣り上げて。トニーの畑でありとあらゆる野菜強奪して、食材として無事にテーブルの上に出されたのは、その内の1割に満たない……らしい。 馬鹿…? っていうか、釣り下手だったんだ……? それに、釣りだけで3日ってことは残りの4日間はこれ作ってたってこと? スープは兎も角、野菜サラダなんて千切って洗って盛り付けて…で出来上がりだよね。 それと、これのどこに釣り上げたサーモンがある訳? もしかして、藻屑と化した材料の中にサーモン丸ごと一匹入ってたのか…? だったら、あんた何の為に3日間釣りしたのさ(呆)。 「…………………これ、食べられるの?」 見目と匂いは普通っぽいけど、念の為に脇で胸を張るシランを見上げた。 「愛があれば食える!」 だから、愛なんてないんだけどっ?! っていうか、それってどういう意味さ! 食べられないかも知れないって事? 「…………………」 食べたくない……。ある意味、レックナート様の作ったモノとタメを張るんじゃない? 「食わないのか、ルック」 じっと目の前のスープとサラダを見つめたまま固まっている僕に、覗き込むようにシランが腰を折ってくる。 「た…食べるよ」 だから、それ以上近づくな! きちんと並べられていたスプーンを取って、スープに浸す。軽く混ぜて漂ってきた香りは、案外悪くないものだった。 思い切って少し掬って、恐る恐る口に運ぶ。 「……………………お…いしい?」 以外にも、そんな風に言葉が零れてしまうくらいには、美味しいそれに正直驚いた。 「俺様にやってやれない事はない」 踏ん反り返って胸を張るような事? まぁ、いいけどね……。初めてにしては、いい出来だと思うし。 もう一口、スプーンで口に運ぼうとして…何気にちらりと視線を向けて、ふっと―――それに気付いた。 「……それ、どうしたのさ」 いつも皮の薄汚れた手袋で覆われた手が、何だかやたら不恰好に膨らんでる。 と、慌てたようにシランが手を引いた。 「あっ、いや、これはだな〜 」 珍しい……あのシランが、言いよどんでる。 「サーモンにでも噛まれたの?」 有り得そうで笑えるけど…ね。 「ま…似たようなもんだな」 ………珍しく殊勝な台詞に、おやっと顔を見やる。 と、あまりまともに彼に向けたことのない視線におどおどしたのか、言葉に詰まりながらも 「その…なんて言うか、包丁ってやつは結構使いにくいもんだな」 何てのたまうから。 あぁ、つまり手を切ったんだ。 それも両手殆どの指を―――。 でなきゃ、殆どの指が包帯の所為で倍に膨らんだりしてないだろうし。 出血も多かったみたいだよね、手袋をしてさえ尚香る、血の匂いが物語ってるよ…。 ………ある意味器用過ぎる。 そう言えば―――。 3年前、僕が不覚を取って怪我した時、こいつに無理やり巻かれた包帯は巻かれた腕の太さを3倍にしてくれてたっけ………。 巻いてなんて要らないって言ってるのに、何度言っても聞き入れられることなんてなくて。 だったら、リュウカンに頼むって言っても、 「ルックを他のヤツに触られたくない」 なんて、やっぱり馬鹿な事言って…。もぞもぞと包帯巻いてく時間が凄く長かった。 不器用なくせに、こと僕の事に関してはマメだったんだ。 ふと思い出して、何となくむっとしてしまった。 不器用、なんだっけ………。 変わってないんだ、その辺も。 「馬っ鹿じゃないの」 きっぱりと言い放って、手を無理やり引き寄せる。 「―――ルック?」 驚いたような焦ったような、シランの声音。 僕の為なんて言わないだけマシだけどね、やっぱり何となく無理やり借りさせられた状態に近いんだけどっ、嫌なんだよね! こう言う借りみたいなの! 風を呼んで、癒しの呪を施す。 シランの手に優しくまとわり付いて、癒すという役割を終えた風が、ふっと拡散してゆく。 そして―――ふっと気付く。 ………もしかして、ヤバかったんじゃ…(汗)。 これで、又………要らない誤解されたんじゃ―――。 恐る恐るシランの顔を見上げると、どこか呆けたような表情にぶつかった。 何となくほっとする。 のも束の間―――。周囲のギャラリーがざわざわとざわめき始めた。 ……そうだ、ここって……レストランだったんだ。 で、僕らの周囲にはかなりの人垣が出来てたんだ…よね。 「ルックが…ついに、」 「ルックが落ちたぞ!」 ちょっと待て!!! 落ちたって何なのさっ! 「スープに何か混入されてたんじゃないかっ?」 ……………それは、有り得るかも知れないけど。 周囲のざわめきに、はっと我に返ったらしいシランは、それこそ満面の笑みを浮かべ、 「混入だと? おう、思い切りしてたさ! 愛という名のスパイスをな!」 人の肩をぎゅっと抱き寄せると、思い切り声高らかにのたまった。 おお〜〜〜v 途端、周囲から無責任な歓声が上がる。 さ………最悪だ。 でも―――。 …………眠りの風を使うのだけは、2回に1回の率くらいでやめてやっても……いいかな。 ...... END
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