… 諸注意 …

 ・ 時間的には、幻水2以降。
 ・ 炎さま御存命で、ルックと会しております(苦笑)。
 ・ 尚、こちらキリリクに付、当サイトの他の炎の英雄妄想小説との関連性は一切
  ありません。一話設定ものとしてご覧下さい。
 ・ 因みに、裏的な表現がございます!

 ―――以上のことをふまえた上で、お進みください。



忘却の時






 触れる唇。
 伝え合う熱。

 そうして、その口付けは微かに煙草の匂いまでもを運んでくる。





 ふっと…外界から吹き込む風に、覚醒を促される。
 微かに瞼を持ち上げそちらの方を見やると、年若い男が夜の帳を背景にし、窓枠に腰掛けて煙草を燻らせていた。
「…………煙草、嫌いなんだって言ってるよね」
 いつもと同じ抗議を口にする。
 寝起きの所為だけじゃないその声は掠れた上に小さかったけど、この男が気付かない訳ない。
「…悪ぃ、起きたか」
 苦笑混じりのその謝罪は、だけど形ばかりのものだ。
 いつも―――そう。
 この男は、独りが嫌いらしい。
 例え、傍に人が居たって、独りなのは変わりないだろうに?
「人恋しいんだったら、酒場にでも行けば…?」
 時間的には真夜中だろうけど、あそこには時間を忘れた連中が居る。
 戦時中だっていうのに、とんでもないとは思うけど…。
 以前一緒に戦った熊は、 「ある程度の酒が入ってた方が、調子いいんだよ」 とか言ってたっけ。
 確かに、あの辺の連中はそうなのかも知れないけど。
「酒じゃ誤魔化せないだろ。一過性の忘却に頼ったって、意味がないしな」
「…………………」
 何を、とは聞かない。
 この男と自分はある意味同類だ。
「傷口広げてるだけなような気がするけど……?」
 瞼を落として、囁くように言うと 「そうかもな…」 小さく返事が返ってきた。


 何から……逃れたい?
 おぼろげながらも見ている―――未来。
 それは紋章の見せる、彼らの望み?



 いつの間に寄ってきたのか、気付いたら男が寝台の脇に立っていた。
「な、に…?」
「眠れないだろ?」
 にやりと厭らしい笑みを、精悍な顔に浮かべる。
「…………誰の所為だよ、」
 嫌みったらしく言ってやると、 「だってワザとだもんな」 と飄々と言ってのけた。
「…………………」
「起きなきゃそれでもよかったけど、ルックだったら絶対起きると思ってたから」
「……あんたのそういうとこ、嫌いだよ」
「いいさ、別に。お前から欲しいのはそんなモンじゃないし?」
 想いなんて要らないと、手を伸ばしながらも男は言う。
「肌の暖かさも、やさしい言葉も要らない」
 頬を両の手で包み込まれ、瞳を心を覗かれる。
「躰も……要らない」
 唇があと少しで触れる、その位置でそう囁く。
「じゃあ、なんで………」
 触れるのさ―――問おうとした瞬間、冷たい唇で塞がれる。
 熱を奪われるかのような……その口付け。
 抵抗なんてしない。
 そんなの、今更だ。
 遠慮なく口腔内に忍び込んでくる舌。
 何を、求めて……?
 絶対に得られないだろうそれの代わりに、舌を絡ませる。
 ただ、求めてくるから…差し出す事で答える。


 あんたは、知ってるだろうに。
 本当に欲しいモノは、絶対に手に入らない。
 僕は……僕の欲しいモノを知っている。
 知っててさえ、手には入らない。
 互いに同じモノを、コトを望んでいるのに―――。



「…不思議だよな…」
 口付けで濡れた口角が微かに上がる。
「……な、にが?」
 荒く乱れた息を整えながら、男の紅み掛かった瞳を見上げる。
「酒飲んでも女抱いても、寝てる時だってアノ世界は俺を苛むのに。同じモノを見てるお前だけが、俺に忘却の時をくれる―――」
「………そうだね」
 だから―――僕にはあんたが必要で、あんたにも僕が必要なんだ。
 だから、……迷いもなく抱かれた。
 紋章で造られたこの身を堕すのは、やっぱり紋章だ―――。
「―――くれよ?」
 囁きと共に、返事も待たずに首筋に口付けが落ちる。熱いそれは、ゆるゆると未だに躰に燻っていた熱を煽る。
「……あんたが、くれるなら――ね」
 忘却を求めているのは僕も同じだから…。
 例えそれが刹那的な時間でも、その瞬間をくれるのなら…この身でも何でもあげる。
 だから―――。

 忘我の瞬間を。
 確実にアノ世界と自分を切り離せる、その瞬間を――。

 触れてくる手は、縋り付いて。
 そうして、刹那な時間をくれる―――与える。

 想いもない、労わりもない、ただ相手から与えられる忘我の瞬間だけを求める。


 胸許に触れられ、弾ける呼気と跳ねる躰が……この行為をそれでも快楽と受け取る貪欲な躰を、己に知らしめる。



 それさえも、まるで……儀式の様だ、と。













 忘我のその瞬間を想いながら、情けないほどに細い腕で男を抱き締めた。








...... END
2002.08.17

5001番目の御来店者様・暗黒魔導士様へ
(相互踏み外し記念?←笑)

 ”炎ルク キスv”でお受けしました。
 ……………こんなん出ましたけど…(爆)?
 キステーマで、何でこんなん??? 本人が一番動揺しております。
 もう、暗くて救い様なくてすみませんっ!!! っていうか、もしかして…裏モノですかね?←聞くな

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