坊 * カイン・マクドール
花泥棒



「ん――・・・」
眩しい光が振りそそぎ覚醒を即される。うっすら目蓋を上げれば日光を直に見てしまい慌てて目を閉じた。残像が見える・・・今日も良い天気らしい。
目を閉じたまま手探りでベッドサイドを漁り、時計を探す。なかなか見つからず無闇に手を動かしているうちに、何かが手に触れた感触と、嫌な予感と、それに少し遅れて――
ガシャン
という音。
「・・・・・・・・・」
まずい。
ここはグレッグミンスターの自室ではなく風寄せの城の一室=壊したら弁償?
はっきり言って時計くらいのお金は彼にとってなんでもない程度のものだが人間とは不思議なもので。かなり辛辣に願いを込めつつもぞもぞとシーツから這い出し床に落ちた時計に手を伸ばせば、
「・・・10時、半?!」
飛び上がるように上体を起こしまじまじと時計を見つめる。幸いにもというべきか、壊れてはいないらしい。日の高さを見ても確かだ。
暫く放心した後、まぁいいかと着替え始める。
昨晩遅くまで本を読んでいたのがまずかった。読み始めたら止まらなくなってしまい、結局一晩で読みきってしまった。
暇つぶしに借りた推理小説で、初めて読むジャンルだったのだが意外にいける。
また別のも借りてみよう。

「・・・アレ、」
遅い朝食をとろうとレストランへ足を伸ばせば、途中に通る石版前にルックの姿はなかった。石版守の仕事を忠実すぎるほどにこなす彼にしては珍しい。しかしまあそういうこともあるだろうと特に気にせずそのまま歩き続けた。
中途半端な時間のこと、レストランの人影はやはり疎らだった。いつもなら空席を探すのに一苦労、なので嬉しい反面もの淋しい。
窓際の席を取りトーストとトマトサラダを注文する。朝の営業はもう終わっているのだろうが、簡単なものだから、と受けたもらえた。
窓の外では子供達はかくれんぼでもしているのだろうか、珍しく息を潜めている。
ご婦人方は花いじりをしながら談笑というか井戸端会議の真っ最中だ。
今日はどうも休日らしい。
という事は彼を連れ出す口実が出来た。別に口実などなくても遠慮するつもりはないが、あるほうが彼も気が楽だろう。
さて、どうしようか・・・
と、そこに朝食が届いた。アプリコットジャムとこけもものジャムがあり、迷った末こけももにした。トーストにたっぷりとのせ頬張れば心地良い甘さが口に広がる。
――今日は外に行こう。
彼は出歩くのを嫌がるだろうけど、折角の良い天気だ、もったいない!
そう結論付けるとトーストの最後の一口を飲み込んだ。



いつも通り石版前へ立てば暖かな陽気。休日なので兵士の姿は殆どなく、代わりに子供達が広間を占拠している。
「かくれんぼしよ――!」
リーダー格らしい少年が高らかに叫ぶと、わらわらと群がって外に走って行ってしまった。それを何とはなしに眺めていると、声がかけられた。子供達に負けず劣らずかしましい声。
「あ――ッ、ルック!ねぇ、ルックもピクニックいかない――?!」
「・・・ナナミ・・・朝からうるさいよ・・・」
右手にはお弁当らしきバスケット、左手には風読み軍軍主たるイチノを掴んでナナミが足音大きく走ってきたのにあからさまに眉を顰める。・・・バスケットの中身はナナミ手作りと見た。
「ねっねっ、行こうよ!折角の良い天気だし、もったいないよ?他にはね、サスケとかフッチとかテンプルトンとか誘ったんだ♪」
にこにこというその言葉の内容に少し違和感を覚えた。
「・・・あいつは、誘ってないんだ?」
あいつ、というのは勿論カインの事だ。ナナミはどうか知らないが、イチノはカインをえらく慕っている。遠征は勿論、出来る限り一緒にいたいらしい。だから、こういうことなら誘って然るべきな筈だが・・・
「あ、さっき誘いに行ったんだけどね、なんか熟睡してるみたいだったからやめとこうってイチノが。」
「寝てるって・・・まだ?」
さっき部屋を出るとき見た時計は9時過ぎを示していた。いくら休日でももう起きるべき時間ではないだろうか。 「ね―、いこっv」
「嫌」
「え―――ッ!!」
「・・・嫌。」
「こんっっなに良い天気なんだよ?!もったいないとか思わないの?!」
「・・・余計なお世話。とにかく、行かないから。」
そう云ったきり、ルックが目を閉じて会話すら拒絶してしまうと、ナナミは暫く唸っていたもののやがて行ってしまった。
一気に静かになり長い息を吐く。

そっと目を開ければ確かに良い天気。窓から差し込む光を見ていると眠気がやってくる。
「・・・・・・」
こんな所に立っている自分が馬鹿らしく思えてきて、石版にもたせかけていた上体を起こすと転移した。







石版前には変わらず静寂が流れる。
「おんやぁ??」
レストランを出てもう一度石版前へやってきたが、相変わらずルックの姿はない。
これはどうやら本格的に出かけているらしい。
ルックの行き先の心当たりといえば図書館、屋上、彼の部屋・・・位だろうか。
「・・・さて、」
何処から探そうか?
口元に笑みを浮かべてカインは回れ右をした。


――と、早くも30分経過。心当たりは何処もはずれで、大まかに城中回ったが彼の姿はなく、結局振り出しに戻ってしまった。
「ん―〜?」
何処だ?
右手の紋章を使えば一発なのだが・・・それはしたくない。
石版を見つめて分かるものではないが、なんとなく見つめてしまう。名前はほぼ埋まっていた。
何気なく石版前に、ルックの様に、立ってみる。
・・・いつもこんな視界なんだな・・・
段差があるわけでもないので大した違いはないのだが、それでも結構違って見える。天窓からの光がちょうど差し込み、暖かい。
――あぁ、折角遊びに行こうと思ったのに―――・・・?
「――――――あ。」
忘れてた。



思い至って行ったのは図書館裏・茂みの中。道らしい道はなく、突き刺さろうとする草やら枝やらを避けながら進むのはなかなか骨が折れる。
(あ――も―うっとおしいな相変わらず!!)
ルックが一人になれる場所、として見つけた所なのでとにかく入りづらい。木が生い茂り放題で、普通の人間ならここを通ろうという気にはまずならないだろう。ルックは勿論転移していく。本来、そうでもしないといけないような所なのだ。それでも行くのは・・・
「愛、だよなぁ・・・」
一人悦に入りつつ、かの英雄殿はずんどこ進む。

ようやく終わりが見えてきて、逸る気持ちを抑えようともせず歩を早めた。
草いきれでい気がつまりそうだ。おそらく体中葉やら草やらにまみれていることだろう。間抜けこの上ないが、それでも最初のころよりは進歩したと思う。何も考えないまま真っ直ぐ突き進んでしまい、うっかり漆に触れてしまいえらい目にあった事を思えばこの位なんでもない。
因みに、そのときは見かねたルックが治してくれた。かぶれに見かねて、ではなく自分の間抜けさを見かねて、だが・・・
ともかく、到着。
「ルック―――?」
きっと読書でもしているのだろうと控えめに呼びかければ。
「・・・ ・・・ ・・・」
正解だった、と胸をなでおろしつつ近付く。
予想外にもルックは眠っていた。
近付いても起きる気配はなく、ぐっすり眠っているらしい。そして何故か膝の上には白い竜もどき。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かわいい。

ルックの寝顔なんてもう数え切れないほど見てきて、それは往々にしてベッドの中だが、それだって勿論かわいい。しかし、この柔らかな白日のもと、というのは初めてでその上動物というオプション付き。・・・なんとも言えない。
(う――ん・・・)
しゃがみこみ、じっくり観察。変態じみてきたかも、と真顔で思いつつ真剣に観察。
たっぷり2分37秒考え、行き着いた結論。
ぱっと見はこっちの方がかわいいけど、総合的にはやっぱりベッドの中だな。
うんうんと一人納得していると白い物体がもぞもそと動き出した。
ぱちっと目を開け、カインと視線がぶつかる。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
見つめあう(?)二人(?)の間に流れるなんとも微妙な空気。そらすにそらせなくなり困っていると、
「ん・・・・」
小さな声に一人と一匹はばっとそちらを向いた。白い竜もどきはきゅいきゅいと鳴き始め、ルックの法衣をよじ登って行く。
「・・・ブライト?どうしたの?」
寝ぼけ眼ながらもいつものような不機嫌さはなく。
「・・・・・・・・・」
カインの胸に、不穏な闇が広がり始めた。
竜もどきはルックの腕に抱かれて頗る幸せそうで。一方自分はまだ声をかけてもらってすらいない。
「・・・おはよう、ルック。」
「何、いたの。」
いつもと大して変わらない冷たさだ。しかし今は酷く身に染みる。
・・・白いのは頭なでてもらったりしていて。
カインは戦闘モードに切り替わった。
先制攻撃、竜の首根っこを掴みこちらに寄せる。途端激しく鳴き始める。
「ちょ、何してるのさっ?!」
カインの手からブライトを取り戻し、宥めてやると竜はすぐに泣き止んだ。ルックにがっちりとつかまり、尚且つルックは拒否しない。それどころか片腕で竜もどきを支え、もう一方で頭を撫でたりしていて。とても仲良し、に見えるだろう。
・・・ちょっと待て。恋人(自称)たる俺でさえ、滅多に出来ない事だぞ?それを何故竜もどきがこうもあっさりと?!!
「ルックって、動物に甘い。」
「は?」
「っていうか、俺に冷たい。」
「・・・何言ってるのさ、」
すっかり拗ねてしまっているらしいカインにルックは溜息をつくと、それでもブライトを少し離した。
「大体なんでここにいるんだよ。これ、フッチのだろ?」
そう言うとルックは瞳を翳らせた。
「フッチが・・・」
「?」
「・・・ナナミにピクニックに誘われて・・・ナナミの手作り弁当があるからせめてブライトだけでも、って・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
成る程。それは・・・・・・・・・・・・・・仕方ないかもしれない。
しかし。
だからといって納得できるほど寛容じゃないんだな――
カインが企み笑いを浮かべると、ルックはそれに気付いたらしく反射的に少し腰を引いた。
うんうん、俺のことよく分かってくれてるね。でもまだ甘いね―――?
ルックの顔の後ろ、木の幹に手をつき軽く唇を重ねる。
ルックはこれを予想していたのだろう、驚きはしていなかったが逃れようとした。
逃す気など、ある筈もない。腕に閉じ込め、さらに深くを貪った――

「っの・・・」
「ごちそうさまvv」
にっこり笑顔で顔を離せばルックはやはり赤い顔をしていた。
寝顔もいいけど、こういう照れた顔も良いんだよな――と、さっきとうって変わり余裕の表情でルックの隣に腰をおろす。
竜を見れば、よくわかっていない様子でこちらを見ていた。
・・・勝った。
一人で勝ち誇り(表情には出さないけれど)、ついでとばかりにルックに寄りかかった。
「重いっ。」
「気にしない気にしない。心頭滅却すれば火もまた涼し、ってな?あ、でも俺のこと忘れんなよ?」
忘れさせないけどね――と、振り向きざまに今度は頬にキスをした。
「ちょっ・・・・・・・・・っと、」
ルックが身体を捻ったからか、ブライトが落ちかけた。カインにとってはどうでもいい、むしろ落ちて欲しい位なので目を向けただけだったがルックはそうもいかない。咄嗟に手を伸ばし抱きとめる。肝心のブライト自身は何事もなかったかのように一声鳴き再びルックをよじ登り始める。カインは少しむっとしたものの、まぁ余裕を見せつつ傍観。
これ位俺たちに比べたらねぇ――?
余裕綽々、といった所だ。が。
「・・・ブライト?」
よじ登りよじ登り、よじよじよじ登って行き着いた先はルックの顔。の、
・・・・・・・・・・・唇。
「っっ?!!」
「!!!!!!」
うちゅうっと可愛らしげにルックに口付け・・・・・・・をやってのけた。

「さばっ・・・・き・・・っっ」
「阿呆!!」
迷いなくソウルイーターを発動させかけたカインの口をルックは慌てて塞ぐ。
広がりかけた闇は一応成りを潜めたようだがブライトは紋章の気配を感じてか、カインの形相に恐れをなしたのか一目散に茂みの中に消えていった・・・
「あんた何考えてんのさ!!用もなく紋章使うんじゃない!!」
「いった!」
がごん、と結構な音を立ててロッドで後頭部を一撃。流石に効いたらしく、よく見れば涙目になっている。
「用もなく・・・って、用はありすぎるだろ?!ルックに・・・ルックに・・・・・・・・・・!!!」
「動物じゃないか?!」
「動物でもなんでも許せない!!ルックは嫌じゃないわけ?!俺以外にキスされてさぁ!!」
「・・・・・・・っ、」
恐ろしいほどの光をたたえた真っ直ぐな瞳に言葉を失う。

嫌じゃなかったわけではない。
そりゃあ、快くはない。
彼以外からのキスなど。

(・・・・・・・・・言えるか!!)
そんなことが素直に言えるルックではない。言葉は出かかって、しかし咽につまり声になることはなく。仄かに頬を赤らめるだけだ。
「・・・・・・今さらどうにも出来ないだろ、」
内心の動揺を出来るだけ出さぬように細心の注意を払いながら立ちあがろうと腕を突っ張ればがっしりと掴まれて。カインの目は黒かった。暗かった。むしろ異次元を見つめていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なに、」
「一、あの白いのからルックの唇を取り戻す。
 二、ルックの唇を俺の唇で清める。
 ・・・・・・・・・・・・・・どっちが良い?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
その黒い目に反しルックの頭は真っ白になった。
取り戻す?清める??
何を言ってるんだこの大馬鹿サイコ野郎は。←素
「どっち?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・七。」←とりあえず答えてみる
「・・・・・・・・・分かった。」
ゆらり、と立ち上がるとカインは低く笑いながら森、ブライトが向かった方、へ歩き出した。
「どこ行くの?」
「ルックの望みどおり七、つまりは『絶品!驚き!!こんなに美味しかった竜もどきフルコース!』を実行しに・・・vv」
くっくっく・・・と、この世で最もイっちゃってるだろう笑いを洩らしながらカインは森に足を踏み入れた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「切り裂き。」














「・・・ふぅ。」
さっきと同じ木の下に座るルックの横には赤い布を纏った塊が横たわっていた・・・・

















途中でどうしようもなくなりました(死)

さらにどうしようもなくなりました。一番壊れていたのはルックでも坊でもなく私ですとも!うふふ・・・・(壊)
とりあえず、押し付けてみましょうか。では!!(逃)




あんこさまより

 押し付けられてみましたー♪
 っていいますか、元々こちらはあんこさんの旧サイトで444を踏んだ時に書いていただいた小説の没作なんですよね(笑)。取引ブツとは違うのですが、あちらの転載許可は無理だろうということで、こちらをv
 はうv 相変わらず、あんこさんのカイン坊素敵ですvv 読んでて、どきどきしてみましたvvv それにルックの唇の罪深さ―――何ともいえません!!

 快く(?)転載許可いただいて…有難うございました!


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