坊 * ハヤテ / 2主 * マメぞう |
「………おかしい。」 ルックはいつものように石版の前に立って、そう小さく呟いた。 そこ、ロビーには転寝中のビッキーを除き誰もいない為、 その呟きが誰かに聞かれることは無かった。 ルックが何故そう呟いたかというと、いつもいつも自分のそばを離れようとしない 人物の姿が、ここ最近見かけない事だった。 その人物とは、3年前の戦争で解放軍のリーダーを務め、108星を率いる天魁星だった少年。 ハヤテ・マクドール。 自称ルックの恋人らしい。ルックはそれを認めようとはしないが。 まぁ傍から見れば充分ラブラブの恋人同士。二人の関係など周知の事実だ。 そんなハヤテの姿は近頃自分の傍にない。 いるのはほとんど夜のルックの部屋。マメぞうにあてがわれた部屋など、彼には不要。 ほとんど泊まるのはルックの部屋と決まっていた。 何故居ないのか、何をしているのか少しは気になったがそれを本人に聞いて 絡まれるのは正直嫌だったし、そんな事気にしている自分が苛立たしい。 元より他の他人に聞くなど言語道断。 だからあくまで正常に。 だがさすがにそれが一週間も居ないとなるとおかしいと思う気持ちも確信となる。 確かにこの城には居るのだが。 あの常に自分と一緒じゃないと安心できないような彼が自分を一人にしておく事がそもそも おかしいのだ。 (何で僕が気にしなきゃいけないんだ。) からかわれずに済むし、ひっつかれなくて清々する。 むしろ願っても無い事だ。 そりゃ、3年前はよく一緒にいてやったが。今の彼にはマメぞうというある意味最強の 仲間がいる。 自分といるよりは、その方が良いにいまっている。 …良いに、決まっている筈だ。 「……本当、健康に悪いよ。」 そう悪態をついて、ルックは石版に預けていた体を起こし、あたりを見渡した。 感じるソウルイーターの気配。それは今自分がいる左のほう。つまりは城の東のほうだ。 ルックにとって一番行きたくない方向でもあった。 レストランやら風呂場やら酒場やら、人が多く集まる場所。 (自分だってそういう所嫌いじゃなかったわけ?) どちらかというと逆方向にある図書館へといく事の方が多い。 彼は自分と同じように人の多いところを嫌う。まぁあんな紋章つけてれば当然だ。 大仰に溜息をつき、足を東の方へと向けた。 まず最初に行くのは、順番的に酒場だろうか。 酒場…考えただけでも嫌気がさす。 * * * * * 嫌々ながらも来た酒場には彼の姿は無かった。 いたのは熊と青いの二人と赤いやつ。嫌な面子だ。 「よぉ!ルックじゃないか。どうしたんだ?珍しいな!!!」 そのまま通り過ぎようとしたルックを例の熊が呼び止める。 「うるさいよ。あんたには関係ないね。」 冷たい眼差しを熊達に一瞥して、ルックはさっさとその場から歩き去る。 「ルック殿。今日はハヤテ殿とは一緒ではないのですか?」 ルックの超不機嫌オーラを感じているのかいないのか、カミューはそう嫌味ったらしい笑顔で尋ねてきた。 その言葉でルックの超不機嫌オーラは一層深まった。 それにいち早く気がついたのはめずらしくもフリック。少しは成長したらしい。 「まぁいいじゃないか。別にいつも二人でいるわけじゃなかろうし。」 気を利かせてか、話を逸らそうとするフリック。だがしかしそんなフリックの言葉も無駄だった。 「しかし二人そろっておられるととても麗しいですからな。」 マイクロとフのその言葉で、一気にその場の空気が5度は下がった。 「……………………………切り裂き。」 哀れ、その場にいたただの客達は、風の攻撃に巻き込まれる形となってしまった。 相変わらず口の減らない単細胞だ。 などと考えながらルックは凄惨な状態となってしまった酒場から涼しい顔で出てきた。 なんだか久しぶりにストレス発散をした気分になる。 「どうした?珍しく機嫌が良い様だが。」 不意に声をかけられ、声の主の方へと視線を向ける。とそこには珍しい組み合わせ。 城の入り口の前、木の下の影に二人の人物がいた。 一人はいつも大人しい狩人のキニスン&シロ。そしてもう一人はこれまた無口のクライブ。 この二人とはよくパーティーメンバーの時、共に後方を歩くということでよく顔を合わせたものだ。 まぁルックとしては大嫌いではない面子の中にいる。 「何?あんた達だって珍しい組み合わせじゃない。」 「………まぁな。」 言って二人は苦笑いをする。 (……こうやって詮索してこないとこ。あいつも見習えば良いのにね。) 「あれ???ルック????」 物珍しそうに横から声がかかった。なんとなく予想はしていたが、嫌そうな顔をルックはそちらへ向ける。 「…………やぁ。何か用?」 いつものお決まりの台詞に、声の主・フッチは苦笑い。それはまだいい。 気に入らないのはそのフッチの隣にいていかにも嫌そうな顔のガキ・サスケだ。 「何か用ってなぁ!お前が珍しくそんなとこにいるから声かけただけだっての!!!」 「時間の無駄だね。」 「なんだとぉ!?やるのかよ!!!!!」 「別に良いけど。一週間は医務室行きだね。」 ルックの冷めたものいいに、サスケは顔を真っ赤にして怒り出す。 「ま、待ってよ!落ち着いてサスケ!ルックもそんな事言わないでさ!!」 慌ててサスケの体にしがみ付いて静止しようとするフッチ。 「大変だね、フッチ。」 別に同情しているわけではないが、何となく言った言葉にさらにサスケが怒り出す。 「なんだ!!!?その態度の違いわぁ!!!!!」 …別に。少なくともフッチは一応礼儀をわきまえてるし。 それがルックから見た二人の感情。 「それより!どうしたの?何かあったとか…。」 「……ハヤテ、見なかった?」 少し間をおいて訪ねる。それにフッチは気にした風も無く考え出す。 「えっと、ハヤテさん?さっきマメぞうさんとレストランから出てくるの見たよ。 マメぞうさんの部屋に行くって言ってた。」 「……マメぞうの部屋…ね。」 まぁあの二人はセットで見ることはおかしくない。戦闘パーティにいる時は必ずマメぞうはハヤテを 自分の傍らに置く。結構信頼してるんだと思う。彼のああいう性格だし。 マメぞうのおおざっぱな性格はハヤテには丁度いいとは思う。 ………なのになんであいつは自分の所にいつもいるんだ。 その場で体に風を纏い、マメぞうの部屋の前へと転移する。 (…確かにソウルイーターの気配はするな) ルックがノックもしづに、そのドアノブを掴んだ時だ。背後にもうひとつ別の気配を感じた。 「何?何か用?」 「それって普通僕の台詞じゃない??」 溜息をついているが、口調は楽しげで。相変わらず何を考えているのか分かりにくい。 「もしかしてハヤテを迎えに来たの?」 「あんたには関係ないだろ。」 ふん、と顔を背けるルックに、マメぞうはやはりおかしそうに笑った。 「照れなくたって良いって。」 「照れてない。」 ったく、あいつと同じようなこと言う。 「いるよ?でもまだ入っちゃだめ。」 「何で。」 「そしたら今までの苦労が水の泡じゃん!!」 ……はぁ? 小首を傾げたルックに、尚も楽しそうに笑うマメぞう。 「あいつ、何やってるわけ?」 「秘密。…ちょっと待ってね。」 そう言って、マメぞうは自分の部屋のドアノブを回し、少し開いたドアの隙間から中をのぞく。 「ああ。良いよ。…そろそろ限界だと思うし。」 「???」 ドアを開けて道をあけ、中へと促すマメぞうを怪訝に思いながらも、中へと入ってみる。 そこで思わずルックは開いた口が塞がらなかった。 「何…これ。」 部屋の中は毛糸の屑だらけ。しかも何かを作ろうとして失敗したような形をしていた。 その屑の中、マメぞうの部屋の中央に位置する机の上にうっつぶして、探していた当の本人が 静かに寝息を立てている。 「マフラー作るんだって〜」 何がなんだかわからず、呆けていたルックに横で、未だに楽しそうにマメぞうが言う。 「まふらぁ〜〜〜????」 何で。 「もうすぐあれなんでしょ?君と、ハヤテが始めてあった日。」 そういえばそんな時期になってきたのかもしれない。 だが。 「それで何でマフラーなんかつくるわけ?」 「全くさぁこっちまで赤面しちゃうよねぇ〜。」 クスクスと笑い出すマメぞうを、ルックはにらみ付けた。普通だったら兵でも一歩引いてしまうような 冷たい視線だが、マメぞうはそんな事全く気にした風も無い。 代々天魁星はこういう奴なのだろうか?とすら思えてしまう。 「笑わすんだってさ。」 「は?」 「ルックいつも仏頂面だから一度でいいから笑わせるんだって。本当にらぶらぶだよね。 羨ましいよ。相手がハヤテじゃなかったら絶対僕が盗ってるのに!!ま、いつか盗る気だけど。」 さりげなくさらりとものすごい事を言っているのだそんな事今のルックには届いてはいない。 「ルックにマフラー作ってあげたら、喜んで笑ってくれるかも、だって。 望み薄いけど。まぁ努力は認めてあげてね。初めてなんだってさ。編み物。」 珍しくマメぞうはいつもの何やら含んだ笑みではなく、ニッコリと笑って ポンッとルックの肩に手をおいて出て行った。 「………僕を笑わせる…ねぇ。」 深い深い溜息をつき、ルックは未だに寝息を立てているハヤテの方へと歩みを進める。 馬鹿だよ。 すぐそばまで来ても、彼は目を覚ます気配はない。 いつもだったら、寝ている時に傍に寄ればすぐに目を覚ますのに。 それ程疲れているというのだろうか。彼は。 彼の周りに散らかっている毛糸の屑を手に取り、再び溜息をつく。 ナイフ捌きも器用にこなすくせに、こういうことは不器用なんだから……。 「あんた馬鹿だよ。」 その黒髪に触れて、梳く。 そこまでして頑張ることなのだろうか…?いや、するのだろう。ハヤテだから。 「………ほんと。」 END… ■月ノ郷様、いかがでしたでしょうか?? え?違うって?……ごめんなさい(滝汗)。 考えて考えた末に、坊ちゃんがルックを笑わそうと奮闘しているんだけど、 かなり遠まわしに言ってます!!うぅ…文才無いから…いやそんなことの所為にするのも どうかと…ふぅ…。無駄に長いし…。 結局甘々でしたね…。リクありがとうございました〜。がく…。 |
浅見さんのサイト『MULTIPLEX』の2222を踏んで戴きました。 キリリク内容は”ルックを笑わせようと奮闘する坊”でございます。 ふわー、可愛いですよ! 坊もルックも!! 坊もちゃんとしっかり!奮闘して下さってますし♪ それも、ルックの側に居られないくらい!ですよ!! 側に居ない坊を捜して、あちこちで騒動(?)を起こすルックも凄く可愛いですし! 本当! 有難うございました!! |