”免罪符”ときみはいう






 白磁の肌のあちらこちらに散った痕。
 それを目にした時のショックといったら。

「あぁ、これは免罪符だよ」

 それなのに、恭弥は何でもないことのように言う。
 呑まれそうな程綺麗な瞳に、ゆるりと笑みを乗せながら。

「………免罪符、って」

 何だ?

「僕はあなた以外の男に抱かれた」

 そう、恭弥の肌を彩る朱色は正しくその痕だ。

「僕はあなたを裏切った」

 いわゆる、恋人同士というカタチに収めないと気が済まないの? と訊ねてきた恭弥に、一も二もなく頷いたのは俺だ。
 浮雲の性質そのままの恭弥だから。
 それでなくても実質的な距離に阻まれている所為もあって、その関係に縛り付けておきたいとそう思った。
 枷になればいい、とそう浅ましくも考えた。
 だから、その定義を前提とすると、他の男と関係を持った恭弥は俺を裏切ったといえる。

「あなたは、それを理由にいつでも僕から離れる事ができる」

「ーーーッ、」

 免罪符。
 それを必要とするのは、恭弥ではない。俺だ。

「そして、どんな理由があったとしても、自分自身の意思で他の男に許した僕は、そうするあなたを許容するしかできない」

「恭弥ッ!」

 いつか、離れる時の……為の?

「その時の為の、これは免罪符だよ」

 淡々とした口調が、いっそ哀しい。
 自由気ままだが、潔癖な恭弥は誰彼ともなく触れることを許したりしない。
 だからこそ、俺がつけていない痕を見たときのショックは計り知れなかった。
 その恭弥が……そうしてまで俺に免罪符を突きつけたのだ。

「……恭弥」

 それのどこに、お前の利がある?
 全て、俺の為だと……そう思えてしまう。
 こちらに向けられたまま、そらされない視線。
 言葉の先を促す瞳に、目頭が熱を持つ。

「俺は……詰られて、罵倒されて、殴られたかった」

 免罪符なんて、要らなかった。
 俺と恭弥の立場を考えれば、いつかその時はくるのだとしても―――それでも。

「何で………離れる時のことなんて、考えてんだよ」

 それとも、そう考えるに至ったのは始まったからこそ、なのか。

「……恭弥」

 考えなしに、ただ欲しいとそう思ってしまったから?

「恭弥」

 手を伸ばさずにいられないほどに、求めてしまったから?

「恭弥、」

「だから」

 こんな風に追い詰めてしまったのは、浮雲たる者を捉えようとした浅はかな俺の所為なのか?
 視界の中で、恭弥の姿が滲んで揺れる。

「だから、今は………まだ、抱いててくれていいから」

 こちらへと伸ばされた指先が小さく震えていた理由なんて、問えない。

「恭弥、恭弥……恭弥ッ」

 許して欲しいなんて言わない。
 そうさせておきながらも。
 それでも、未だにその手を離せない愚かさを。









......08.11.16 END




 うわ〜(汗)。
 初書きディノヒバがこれとか……有り得ない!
 自分の中の雲雀のイメージぶち壊してんですけど、これ!←おい