僕は困らない






「やめて」

 ぴしゃりと撥ね付けられた手が、やたらと冷たい。
 ダイレクトに胸を刺す冷たさだ。

「……えー」

 だけど、冷たさを誤魔化して拗ねてみせる。その冷たさは、胸を苛んでいるというのに。それを感じていないかのごとく振舞うのなんて、意識しなくても出来る。
 もっとも、恭弥の場合。そんなのはいつもの事過ぎてるから、ひとつひとつの動作が拒絶とは直結しない。撥ね付けられるイコール拒絶ではないことが、胸の痛みを多少なりとも軽減してくれる。

「意味もなく、僕に触らないで」
「………ぇ」

 何かを含んだような物言いは、故意か無意識か。
 ただそれを見極めたくて。
 目を眇めて、綺麗な作り物めいた貌をじっと見つめた。

「……意味を持たせたら困んの、恭弥だろ」

 揶揄るように言えば、綺麗な瞳が真っ直ぐに俺を射抜く。

「ディーノ」
「ーーーッ、」

 名を、呼ばれる。
 それだけで、鼓動は跳ね上がるというのに。

「僕は困らない」

 あぁ。
 何てこった。

「僕は、困らないよ」

 なんて、強さだ。
 本人同様に、言葉も瞳も情け容赦なんて、微塵もない。
 この視線で射抜かれて、平然としてられる筈がない。

「困るのは、あなただ。ディーノ」

 目が眩む。









......09.05.15 END




 リハビリ的ディノヒバ。
 恭弥は何にしても認めたら潔いと思われる。
 ディーノがそうじゃないと言ってる訳じゃないけど(苦笑)。恭弥の漢前さの前では、掠れるだけで。


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