escape それは、いっそ唐突といっていいほどに。 「俺はお前にとって重荷か」 なんの前触れもなく、掛けられた問い。 「……突然、何」 だから、そう聞き返してしまうのも仕方ない。 「さぁ?」 だけれどそれに返されるのは、ふざけているとしか思えない軽い声音で。すっと、目許を眇めて目の前の相手を見やった。 「そう思うんだったら、近寄らないでよ」 淡々と言い放つのは、意趣返しの意を含めて。ちゃんとした返答にはなっていないけど、恐らく……伝わる筈、だ。 「そいつは無理だ」 ―――ほら。 「……だったら、聞くだけ無駄だろ」 だから、ほんのちょっとだけ。 許容するように、微笑って見せてやった。 それは、この男の示す唯一の逃げ道だと、知っている。 逃がす気なんてないと、宣言しながらも。事ある度に、こいつはそれを用意する甘い男だから。 そんなものに乗ってやる気なんて、それこそ微塵もない。 逃げ道なんて提示されなくても、僕は僕の生きたいように生きるんだから。 「僕はあんたほど甘くはないよ」 逃げられないのは、自分だって事にいい加減気付いたら?
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