escape






 それは、いっそ唐突といっていいほどに。
「俺はお前にとって重荷か」
 なんの前触れもなく、掛けられた問い。
「……突然、何」
 だから、そう聞き返してしまうのも仕方ない。
「さぁ?」
 だけれどそれに返されるのは、ふざけているとしか思えない軽い声音で。すっと、目許を眇めて目の前の相手を見やった。
「そう思うんだったら、近寄らないでよ」
 淡々と言い放つのは、意趣返しの意を含めて。ちゃんとした返答にはなっていないけど、恐らく……伝わる筈、だ。
「そいつは無理だ」
 ―――ほら。
「……だったら、聞くだけ無駄だろ」
 だから、ほんのちょっとだけ。
 許容するように、微笑って見せてやった。

 それは、この男の示す唯一の逃げ道だと、知っている。
 逃がす気なんてないと、宣言しながらも。事ある度に、こいつはそれを用意する甘い男だから。
 そんなものに乗ってやる気なんて、それこそ微塵もない。
 逃げ道なんて提示されなくても、僕は僕の生きたいように生きるんだから。

「僕はあんたほど甘くはないよ」
 逃げられないのは、自分だって事にいい加減気付いたら?









2005.06.19

 単発。
 書きたかったのは、互いの台詞だけ。我が家にしては珍しい、強気のルックさん。

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