息づく幸福 そっと額に触れるだけのキスを落とすと、閉じられた瞼が小さく震えて……そうしてゆるりと開かれる。 起き抜けの翡翠は、はっきりと焦点を結ばない。 こんな無防備な彼の人を拝めるようになったのは、出会ってから何年目だったろうか。 永過ぎる時間は、その感覚さえ曖昧にさせる。 だけど。 「………おはよう、ルック」 覚醒を促すように、ひそりと囁く。 「………ん、ソウ?」 違え様もなく呼ばれた名に。 僅かに擦れた声に。 そうされるというのは、己にしか許されていないという事を……知っている。 「うん、おはよう。ルック」 そして。 そう言える、これ以上の幸福を、俺は知らない。
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