詐欺師






 どこか淋しそうな微笑みで、 「ごめんね」 とそう柔らかに囁かれて…それに否と言える者が一体何人居るだろう。






「…………詐欺師」

 ぽそりと呟いた台詞に、言葉を掛けられた本人はどこか困ったように苦笑を漏らす。

「酷いなぁ」

 どこが、だとルックは思う。
 舌先三寸、笑顔でその場をやり過ごそう等と考えているから、何度も何度も同じ事を繰り返すんだと。辛辣ながらそう思う。

 期待を持たせて、その気にさせて。
 そうするにも関わらず、想いを告げられればごめんねと返す。

 そもそも、こんな男に騙される方もどうかしている。
 こんな嘘臭い男のどこに、想いを託せるというのか。

 それにね、と。

「僕が本当の詐欺師なら、既に落とされててもいいんじゃないかと思う人はいるし」

 毎日毎晩、顔を見る度触れ合う度、想いを告げ続けているというのに、その人は信じてくれないのだと、言うに事欠いて笑顔でのたまう。

 その台詞に、咄嗟に赤くなる頬を悟られずにいられる訳などないけれど。
 それでも気付かれたくないとばかりに、顔を逸らせば。
 くすりと零れる笑みが耳を掠める。
 それが、酷く―――癪だ。

「あんたの言う事なんて、信じられないからね」

「うん、でもちゃんと知ってるからいいんだ」

 柔らかな、どこか穏やかな笑顔でそう言われ。

「…………何、それ」

 そう返すのがやっとで。
 それでもその台詞があながち間違った思い込みでない事も、知っている。
 根拠も何もないくせに、そう言い切るのは……言い切らせるのは、僕の所為?

「大好きだよ、ルック」

「ッ、そんな事聞いてない!」

 声を荒げて言うと、いっそ深まる笑顔に胸を占めるのは……何?






 ―――ねぇ。

 騙すなら……ずっと騙されててあげるから。
 この身が消え逝く最期まで、囁き続けていてくれる?



 想いをくれる、百万の言葉を。









2004.06.11

 拍手お礼 ……サクラ坊?

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