テリトリー 入り込むな―――と、はっきりと告げてくるのは翡翠の瞳で。 正直、気圧され気味ではあったが、 「いいよな?」 一歩も退かない態度を示す為ににっこり笑って見せれば、渋々といった態ではあったが…それでも。 「……好きにすれば」 との言葉をたっぷり瞬き10回分の後に頂いた。 腰を下ろしたテーブルの真正面で、もそもそとスープを口に運ぶ姿を上目遣いで窺う。 相変わらず、機械的な所作だ。食べないと周りがうるさいからって意識でしか食ってないよな、こいつ。 純粋に食事を楽しむとか、美味しさに感動するとかって、そういう感じ受けないもんな。 まぁ、こいつの場合、口にしてくれるだけでもいいと思わなきゃ…なんだろうけど。 それより何より、今は。 たかだか、食事を一緒にするだけの事で、どうしてご機嫌を伺ったり了承を得たりしなくちゃならないんだろう? ってことのが問題だ。 それも、毎回。 逢って2、3日目とかいうんなら兎も角も、初対面時から半年は裕に経っている。勿論、その間ずっと傍にいたって訳じゃないけど…さ。物珍しさも手伝って、これまでにないくらいは通って来てるんだから、そろそろ慣れてくれても良さそうなものだ。 まるで手負いのケモノみたく、近付く度に威嚇してくる翡翠の瞳には辟易しつつ。それでも、眼を離せずにいる事も事実だった。 結構、厄介なモン好きだよな〜自分、とか思うけど。 人慣れないんだったら、慣れさせてやろうvとかって、誰だって普通に考えるよな? 尤もそんな事、目の前の当人に言ったら 「暇人」 とか、一蹴されそうなもんだけど。 だけど、さ。 もし、こいつのテリトリーに入り込めたら。 こいつの翡翠のど真ん中に自分を映せることが出来たら。 そう考えるだけで、高鳴る胸を知っているから。 「やっぱ、諦めらんねぇよなぁ」 苦笑混じりで呟いた。 幸か不幸か、ルックには申し訳ないが。 自分でも呆れるくらい気は長い方なんだよな、俺って。
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