再逢 彩哀 …最愛 − 1 「………どうしてあんたがこんなトコにいるのさ」 恐らく数多の者達を瞬時に黙らせてしまうだろうと思われるほどに威力が込もった冷たい台詞。 それを吐いたのが、10人いればそのうちの9人は見惚れるだろう容姿を備えた少年で。台詞の内容に怯えもせずましてや絶句もせず、満面の笑顔で正面切って受けたのは、これまた黒い髪と濡れた昏い紅玉のような瞳が酷く印象的な少年だった。 誰だって、一生のうち喧嘩の一度や二度は体験する。 人の中で過ごすという事は、それだけ衝突や面倒な確執が多くなるという事だ。 それはそれで、人間という一固体を形成する上である程度は必要だ―――と、同盟軍きっての酒豪を自負するビクトールは言いきった。 だけれど……。 彼らふたりのあれは、既にそういう枠を超えてるのでは……と思ってしまうのは、やはり致し方ない。 それ程に、周囲の目から見ても彼らは仲が悪いとしか評しようがなかった。 「生きてたんだ」 そう顔をあわせた途端に辛辣に言い放たれ、ぴくりと眉間に皺が寄る。 「……お前はまだ、あんな得体の知れないばーさんの使いっ走りしてやがったのか」 「それがあんたにどんな関係があるのさ」 睨み合い毒舌を吐き散らすふたりの少年。 見目麗しさでは、双方とも一見に値するのだが。 顔を付き合わせれば毒舌の飛ばし合い。周囲はその冷たいやり取りに、絶対零度まで凍る。 「うっわー、楽しそうだねv」 「……ナナミ?」 思い切り暢気そうな少女の声に、軍主であるオギはがくりと肩を落とした。この状況を楽しそうと表現できるのは、この姉と某テレポート娘くらいなものだろう。 それにしても……これ、どうやって治めんだ? と、ウンザリしてふたりに視線を戻した所で、背後からナナミ以上に暢気な声音が響いてきた。 「おぅーい、その辺にしとけよ」 「………シーナ」 声だけでその人物が解ったらしいルックが、微かに目を細めた。 「お前等相変わらず、人目気にせずに仲良くし過ぎだって」 ホールへ続く階段を降りながら楽しそうに揶揄するシーナに、周囲の見物人は微妙に固まった。 「…………お前こそ、相変わらず」 微妙な場の雰囲気を読み取って崩すのは、計画的なのか無意識なのか。 どちらにしろ、長所といえる。 「あぁ…ま、いいや。お前この城案内しろ」 「…………オギ、いいのか?」 アカザの台詞に、シーナは城主でもあるオギに問うた。 「頼む。んーで、アカザの部屋は第一貴賓室でよろしく」 シーナに伴われて去っていくアカザの背を見送りながら、 「食事に行こう」 と誘いかけるナナミに先に行くように言い、軍主はちらりと石板に視線を向けた。 「あぁー、やっぱアレは宿星じゃねーのか」 だったら拾ってこなきゃよかった等とうそぶく。 そして、不機嫌さを隠しもしないルックをどこか楽しそうに見やった。 「何、ルック? あそこの部屋駄目だった?」 どこか揶揄うように問い掛けるオギのそれに、ルックは眉根を寄せるだけで答えた。 貴賓室の寝台はルックのお気に入りだった。 いくら一団を率いる団長とはいえ、彼に与えられているのは赤貧に喘ぐ軍らしく、硬い寝台である。 常日頃から眠りの浅いルックにとってそんな寝台で迎える目覚めは、決していいものとはいえない。 初めてオギの部屋で一晩過ごした時は、その寝台の寝心地の良さに心底驚いたものだ。 「あれ、俺ン部屋と貴賓室だけの特権v」 にやりと彼独特の笑みを浮かべて。 彼のその台詞から 『気持ちよく寝たかったら、訪ねて来い』 との意がちゃんと読み取れて、当時ルックは多大に呆れた。 疲れると解っててわざわざ伽の相手しなくても、普段使用してないに等しい貴賓室使えばいいだけじゃないか。本当に、この男は間抜けてる……と、ルックは思ったものだ。 「……今回の遠征パスした嫌がらせ?」 その貴賓室をアカザに明渡したことにとも、アカザを招いたことに対するそれにとも取れるルックの問い掛け。 そこまで狭量じゃねーよ!と、肩を竦めて否定するのには、 「どうだか……」 と冷ややかに零す。ルックは、オギがその程度には強かだということは知っていた。 「それよかさ」 ちらりと意味ありげに向けられた視線には気付かない振りで、先を促した。 「ルックはどーしてアカザとあんなに仲悪ィの?」 唐突に突拍子もない事を尋ねられ、ルックははっ? と訝しげにオギの面を仰ぐ。 「ルックがあんなに怒ってんの、初めて見た」 「………さぁ?」 仲―――悪いのか? そんな事、考えた事もなかった。 好きかと訊かれたら、好きではないと即座に返答できる。 だけど、嫌いかと訊かれたら? その答えでさえ否なのだ。 「どうでもいい……のかもね」 「…………………ルック、それ」 ある意味、凄っげー失礼だよな。 「じゃあ、あんたは逢う人逢う人全員に興味を持って、好きか嫌いか判定してからでないとその人と付き合わないっていうの?」 「―――じゃなくて!」 「何なのさ」 「あそこまで言い合いする間柄なのに、それでもどうでもいいっていうのがオカシイ」 「………そう、なの?」 本気でそう訊ねてきてるらしいルックの様子に、オギは目一杯嘆息する。 「………何か、アカザが気の毒になってきた」 オギの台詞は酷くルックの不興をかった様で、冷たい視線が向けられた。 「あんなヤツ、どこをどうすれば気の毒に思えるのか、全っ然解んないね」 ...... to be continue
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