再逢 彩哀 …最愛   − 2




 その軌道さえ見せずに打ち下ろした棍が、確実に魔物の命を奪う。
 たった一振りでそれを成したアカザは、斜め背後から空中の敵を屠る風を視界の端に収める。
 そうしながらも、真横から襲い掛かってきた魔物には、急所への突きを見舞った。


 ストレス発散遠征とシュウに明言しての、同盟軍の勢力図内への見回り。レベル上げと小遣い稼ぎを兼ねてのそれは、最早オギの趣味といっていい。
 常日頃から暇なく連れ回されている魔法軍兵団長などは、もう既に諦めているのか彼にしては従順に遠征隊に組み込まれてやっていた。


「あんただと、遠慮が要らない分楽だね」
 魔物を前に鮮やかなまでの笑みを浮かべ、ルックはそう言い切る。
「てめーの魔法、喰らう心配ねーからな」
「中っても気にならないって意味だよ」
 いっそ楽しそうにきっぱり言うと、ロッドの先に魔力を集め全体魔法を繰り出す。
「んーなの喰らうかよ」
 ある意味見事な連携ともいえるその戦い振りを離れた位置から見ながら、
「…………入って行けねぇ」
 ぼそりと呟いたのはシーナだった。だけれど、彼の傍らで本日の遠征メンバー達がこくりと頷いたのを見れば、皆同じだと知れる。
「まぁ、俺達は逃げ出す雑魚でも待ってりゃいいさ」
 苦笑いしながら、メンバーのひとり・ビクトールはその場に腰を降ろした。
「あのふたり相手に逃げ出せるのは、その時点で雑魚じゃねーだろ」 そのビクトールに習い、苦笑いしながらフリックも座り込んだ。
 最早、自分達の出る幕はないと、剣を脇に置いて腕を組む。
「……つーか、ふたり共楽しそうだよな」
 魔物の群れのど真ん中に突っ込んで敵を屠るアカザと、そんな彼の存在自体を認識してさえ尚、遠慮も何もなく難易度高レベルの魔術の数々を繰るルックを視界に収め、
「……余計ストレス溜まりそー」 オギは心底つまらなそうにぼやいた。





 それは正味3日の遠征になった。
 夕刻帰城し、軍主に軍師への報告に同行を求められ、そんな雑多な用件を全てを済ませた頃には日もたっぷり暮れていた。
 いくら遠慮なく魔術をぶっ放したとはいえ……否、だからこそ思い切りルックは疲れきっていた。
「………食事取るの、面倒だな」
 いつもない食欲が、一層湧かない程に疲弊しているのを感じる。
 風呂に入って休みたいとは思うものの、一般の風呂場が人で溢れている時間帯なのに、小さく舌を打った。
 疲れている時にあからさまな視線に晒されるのは御免被りたいと、ルックはその場に立ち止まって暫し思案する。
 魔法兵の団長まで勤めるルックの部屋には、風呂がない。それは、ある意味オギの画策だといっていい。あの男は、それさえ利用して、己が傍にルックを誘うのだ。
 いつもなら、風呂と引き換えにノってやってもいいと思うが。今日の自分にそんな体力が残っていない事を、ルックは嫌というほどに知っていた。
「…………と、なると……あいつ、居るかな」
 ぽそりと呟いて、近付く気配にふっと視線を上げる。
 そして、ルックは相手の姿を認めた途端、至極不機嫌そうに目を眇めた。大抵の相手には無表情しか向けないルックがそうするのはとても珍しいのだが、本人はその事に気付いているのか居ないのか。
 向かいから歩いてくる男・アカザは、ルックの存在に気付いた途端、こちらも片方の眉尻を器用に上げた。
 それでも、歩みは止めない。
 ふたり共に、不躾な視線を外そうともしない。
 交わす言葉もなく、互いの脇を抜けようとした途端―――ルックが、何の前触れもなくアカザの腕を掴んだ。
「丁度いいや、あんたの部屋の風呂と寝台貸してよ」
「―――あー?」
「元々、あの部屋は僕が使ってたんだよ、無断でだけどね」
 ルックの思い切り行き成りな台詞に、アカザは眉根を寄せる。
「……風呂は兎も角、男と寝る趣味ねーけど」
「だったら、あんた女のとこ泊まりに行っててよ。扉叩けば寝台共にしてくれるの、何人か目星付けてるだろ」
 どっちかといえば、そちらの方が有難いんだけどね。
 身勝手にも程があるルックの台詞にも、アカザは怯んだ様子もなく 「泊まるのは構わねーけど、今夜は他所行かないぞ」 と、返した。
「…別に、それならそれでいいよ。あそこの寝台広いから、くっ付いて寝なくてもいいし」
「お前、俺だってヤリたい盛りの年頃だって自覚ねーの?」
「………好きでもない男とヤる程、相手に不自由してやしないだろ」
 当然―――と胸を張る男へ、ルックは辛辣な視線を向けた。








...... to be continue


 アカザ坊さまとルックは、凄い……微妙な関係だと思う。

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