コトの始め 5 「お宅の息子さんを下さい」 星見のおばさんに発した第一声がそれだ。 「…………帝国の使者の方ではありませんの?」 「そうです」 いっそきっぱりと言ってのけると、白いヴェールを目深に被った星見のおばさんは微かに笑んだ。 見た目はそれ程いってないように見えるけど、俺の野性的勘が、見た目とおりの年齢ではないと告げているから、この際おばさんで充分だろ。 しかし、すっげー若作りだよな…。 「結構ですよ、と言って差し上げたいのですが、あの子は男の子でその上まだ14歳なのです」 そう言われた。 ―――14? 14だったのか??? 全ッ然見えないけどな…。 だけど、14っていったら…………ちゃんと許容範囲だし、アレとかコレとかっ、色々教え込むのにはむっちゃオイシイ年齢じゃんか! 「全っ然! 構いません」 身を乗り出して力一杯そう言うと、星見のおばさんは薄っすらと寒い笑みを浮かべて、 「嫌です」 きっぱりと言い切った。 おいっ! ちょっと待て!! 俺が誰だか知ってるのか〜、おばさん! 「あの子は、私が7つの時から、手塩にかけてそれはそれは大事に育てたのです。それを今頃、ぱっと出の若造のあなたなんかに、掻っ攫われてたまりますか」 口調は穏やかだが、言葉の端々に剥き出しの敵意と、抗い様のない威圧感を感じる。 つーか……。その台詞の内容もかなりアレだろーよ? ………このおばさんは、ヤバイかも。 ある意味、俺の親父以上―――かも知れん。 できる男ってゆーのは、自分の力量をしっかりと把握しておくもんだって言うのが、親父の持論。 俺だって、グレッグミンスターで1.2を争う武術の腕の持ち主だからな、そのくらいは知ってる。 だけど、このおばさんは………得体が知れない。 得体の知れない敵ほど厄介なものはない。 ――――――仕方ない。 ここは一端退却だ。まぁ、策を練ってその内出直すけど! あれ、絶対欲しいんだよっ!!! このおばさん倒した暁の戦利品としちゃ、申し分ないしv ってーか、あれ手に入れる為なら、そこまでやっても惜しくないっっっ! よーーーーーし! 取り敢えず、だな。 「絶対っ! あんたからルックを解放してみせる!!」 で、俺様のモノにしてやる―――と、指を突き付けて声高らかに宣言してやると、おばさんはどこか引き攣った顔で、 「いいでしょう、やれるものならやってごらんなさい」 俺様の宣戦布告を許諾した。 見てやがれっ! 後で吠え面かかせてやっからな! 「ここは一時退却だ!」 さっさと 『星見の結果』 とやらを受け取って、振り向きざま俺様の従者共に号令をかける。 「お送りしましょう」 なんて涼しい顔して、レックナートがルックをさも自分の所有物であるかのように呼び寄せやがるから。 刹那、現れたルックの両の手を掴み、 「絶対迎えに来るからなっ!」 と、真摯な瞳で告げてやる。 「………あんた、頭大丈夫?」 最後に聞いたのは、溜め息混じりの俺様を心配する台詞。 その言葉にウットリとしているうちに、目の前には…………竜―――。 それと感じることもないうちに、あっさりと見事に転移は完了していた。 ルックは、あのレックナートが俺に危害を加えやしないかと心配して、一番最初に転移をさせたんだな……。照れ隠しの愛を感じるよなー。 ――――――待ってろ、ルック! 絶対にあんなおばさんの手から救い出してやるからなっっっ!!! そして、俺様とめくるめく愛の歌を謳おう! ...... END
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