抱き締めたいと…。

 口付けたいという想いを…。

 触れたいという欲を―――止められない。





+     +     +





 無理をさせたい訳じゃない。
 困らせるのは本意じゃないから―――。
 これまでだって、傷付けてばかりだったから。


「…いい……?」


 そっと囁くように、聞いてみる。
 嫌だって言われたら、本心を言えばこっちだって困ってしまうけど。
 それでも、仕方ないって―――そう、思ってた。

 そうしたら……。


「―――そんなこと…聞くなっ!」


 目許を真っ赤にして怒鳴られた。
 そんな素直じゃない彼が、自分でも信じられないくらいに愛しくて。
 誰かをこんなにも想える自分に、感心したりした。


「うん、ごめんね」


 囁くように謝ると、ふいっと視線を逸らされる。
 それでも、微かに頬が染まっていて。
 普段白い肌に、朱色が綺麗に映える。
 綺麗だな…って思うけど。言ったら、もっと怒らせてしまうから、言わない。
 いつもだって、怒らせるつもりなんてこれっぽっちもないんだけど。
 素直に思っていることを言葉にすると、怒るんだって気付いたのはつい最近。
 まあ、周囲のみんなにも、恥ずかしいことさらっと言うよな、とはよく感心されるから、やっぱり僕の所為なんだろうとは思うけど。

 ―――それでも…。
 やっぱり、ちゃんと伝えておきたいことがあるから。


「ルック―――?」


 ひっそり彼の名を呼ぶ。


「……………何さ…」


 どこか不貞腐れた風に、それでも答えてくれる。
 あぁ、どうしよう―――凄く可愛い。


「うん、―――大好きだよ」


言った途端。


「〜〜〜〜〜っ! それ以上何か言ったら、逃げるからね!!!」


 思いっ切り言い切られてしまう。
 おまけに、今まで見たこともないくらいに真っ赤になってる。
 だけど、もう、法衣半分以上脱がしてるんだけど。
 それに、ここはルックの部屋だし…。
 この状態でどこに逃げるんだろう――とか、考えたけど…。
 これ以上怒らせるのは、流石にやばいから。
 苦笑いしながらも、


「ごめんね?」


「―――っ、もう、いいから…」


 素直に謝ると、半分諦めたように溜め息混じりに呟かれた。


「ルック?」


 疲れてるみたいなんだけど…大丈夫かな?
 尤も、これからもっと疲れさせるんだとは分かってるけど。
 ―――と、いい加減に肌蹴たままだった襟元を掴まれて、組み敷いている筈のルックに勢いよくぐいっと引き寄せられた。


「何か言ったら、逃げるって言ったよね」


 剣呑さも一際に言われ。
 そのまま、唇を塞がれた。


「〜△×○☆⇒!!!! ――ック!?」


 この時の僕が、どんなに慌てふためいて動揺していたか―――ルックの可笑しそうな表情で解るけど。
 驚くなっていう方が無理だ。
 ただぶつかっただけ、としか表現しようのないものだったとはいえ、
 ルックからキスしてもらえるなんて!


「何も、―――言わないで」


 言葉なんて要らないよ…って。
 口よりもよっぽど雄弁な瞳に言われて。


「―――うん、そうだね」


 ないよりはあったほうがいいけど…。
 勿論、ルックからもらえたら嬉しいだろうとは思うけど……。
 いつもは毒舌や冷たい物言いで周囲を牽制しているルックが、実は繊細で恥ずかしがり屋だってこと、ちゃんと知ってるから。

 腕の中に囲い込んだルックの、その赤く火照った頬に、微かに潤んだ目許に、敷布の上に散る髪に―――愛しさそのままにそっと唇を落とした。





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 ねえ、ルック。



 キスをしよう―――。





 キスをして、抱き締めあって、朝まで寝よう?








...... END
2001.10.22

 エロに挑戦して、モノの見事に敗北!
 最初の構想では、もっとエッチくなる予定でした。これではただのラブラブですね〜。最初の3行まで書いて、思いついた題が『熱』だったんです。  でも、結局は月ノ郷だし…って感じであえなく撃沈。精進しましょう。ハイ

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