触れてくるのは掌?
 それとも、言葉?

 それとも――――――。



 薄っすらと重い瞼を開くと、次第に鮮明になる視界に映るのは、至極幸せそうに微笑む瞳。黒曜を思わせるその瞳の色は、けれど今はただ暖かさだけを伝えてくる。
「おはよう、ルック」
 本当に嬉しそうなその表情に、何となくむっとしてしまう。
「……何、朝っぱらから人の寝顔見てんのさ」
 悪趣味だよと言ってやったのに、それでもその瞳は笑んでいて。
「何? ルックは寝顔見られるの嫌い?」
「いい気分な訳ないよ」
 自分の知らない顔を、自分の知らない間に見られてるなんて……冗談じゃないと思う。だから、本拠地の自分の部屋でひとりで寝る時は兎も角、それ以外の場所――遠征先の宿屋とか――での他人との相部屋では、なるべく同室者よりは先に起きるようにしているし、そもそもゆっくり寝てなんていられない。
 今朝だって、例え相手がこいつだろうと、寝顔なんて見せるつもりなんか毛頭なかったんだ。
 だけど――――――。
「…………ちょっとは加減して」
 何もかもこいつの所為。いくら見せるつもりなかったとはいえ、
「2日と空けず…じゃ、身が持たない」
 度重なる行為に疲れきった身体は、己の意思だけでは思う通りにはならない。
「うん、でも欲しかったんだよ」
 だけど、即座にふざけたような返答を貰い、悔しくてキッとその瞳を睨んだ。
「僕の意思とかは考慮されない訳?」
「うん、…ごめんね?」

 ―――ズルイ。

 途端に気弱な色合いをのせる瞳に、殆ど咄嗟にそう思う。
 そんな瞳を向けられたら……もう、何も言えなくなる。
 行為そのものは疲れるし、痛いし、汗かくし…で、好きじゃない。
 自分を見失ってしまう程に呼び起こされる快楽も……自分で自分を制御出来なくなるから―――キライ。
 だけど………。
 触れられるのは、……キライじゃないから。
 こいつに触れられてる時の安心感とか、抱き締められてる時の温かさは……………キライじゃない。
「もう……いいよ」
 溜め息混じりにそう告げる。
 あぁ、どうして僕はこいつにこんなに甘いんだろう……。
 我ながら、それが凄く不本意だったりするんだけど、 「……うん」
 そう頷いた瞳が、やっぱり嬉しそうに色付いていたから。
 ま、いいか―――。
 単純にそう思えた。
 まだ、取れていない疲労に落ちそうになる瞼が、情けなかったけど。
「寝てていいよ?」
 耳許に触れる声音が、あんまり優しくて。
 そのまま―――ゆるりと瞼を落とした。



 触れては離れてゆく、唇とか。
 そっと髪を梳く指だとか……。

 ただ、それだけで温かい。

 僕の心に触れてくるのは、その黒曜。


 そして―――。
 その瞳に託された想い。








...... END
2002.06.16

 昨年の幻水3が出る前に日誌で書いたブツを発掘。
 いや……何というか…(汗)! 甘いねっ?!

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