あんたなんて、居なくていいと…思っていた。
僕が何の為に、星の任を担ってるのか。 それは誰でもない、僕自身の―――為に過ぎないのだから。 その自分には……あんたは必要ない筈、なのに。 なのに、どうして。 あんたを想うと微かに痛みを覚えるんだろう。 その答えを、僕は知りたい。 最後の楽園 − 満ちる、月 「触っても大丈夫だよね」 「……?」 「怖くない、よね」 優しく囁きながら、それでもこわごわと触れてくる自分よりは大きな手に、愛しさを感じる。 法衣の帯を解かれ、そっと身を覆うそれを落とされる。服の裾から差し込まれる微かに汗ばんだ掌が、躊躇うように素肌の上を滑る。 「あっ……」 自分に触れてくる掌の熱さに、小さく吐息が零れる。嫌悪感はないが、それでも消し様のない恐怖に身が竦む。我知らず、逃げだしそうになる身体を、だけれどサクラは難なく押さえ込んだ。 「逃げないで」 「…だっ…て………っ」 羞恥の為、相手の顔さえまともに見返すことが出来ない。 「ルック…」 何―――と、答えようとした唇を再び塞がれる。瞬時、噛みしめてしまった歯列を割って、舌が進入してくる。逃げようとする己のそれをからめ捕られ、呼吸さえもままならない。 自分を蹂躪する舌に気を取られ、相手の手が下衣の前を開き、そこに忍び込んで来るのに気付くのが遅れる。慌ててサクラの胸を押し返しながら頭を振り、執拗な口づけから逃れた。 「……やっ………」 「…嫌じゃない、よね?」 言いながら、強引に触れてくる。 強引だけど…以前のそれとは全く違う。 嫌―――じゃない、けど。 だけど……。 どうしても、強張り竦む躰。 サクラなら……嫌じゃないのに。 「……怖がらないで」 言い聞かせるようにひそりと呟かれる言は、だけれどどこか懇願を思わせ。 それ故に、いっそう拒めなくなる。 きっと、僕よりも……この行為を恐れているのは彼だ。 自分を抱き締めるこの腕の持ち主だ。 「…諦めるのは、もうやめたんだ」 諦め続けていたら、本当に欲しいものさえ手に入らなくなる。絶対に諦められない…全てと引き換えにしてでも手に入れたいもの………というのは、今の自分には在るから、と。 そう言いながらも、恐れている。 拒絶される恐怖を…それと知らぬ間に。 だけれど……それでも求めてくるのは、信じてくれているから? 絶え間なく与えられる愛撫に、心が…身体が次第に懐柔されていく。 「ルック、名前呼んで」 いつの間にかはだけられた胸元に、押し当てられた唇が言葉を紡ぐ。 「…っ、な…に……」 相手の言葉は確かに聞こえているのに、脳への伝達通路が麻痺した様で、うまく繋がらない。 「名前……僕の」 「……あ、やっ…」 唇が敏感な部分に触れ、息が弾ける。 「や…じゃない、名前言って? サクラ…って」 意識さえも麻痺させる感覚に、翻弄されっぱなしだというのに、自分をそういう状況に追い込んでいる張本人がそれを許さない。 「…ァ、クラ……」 労わりと愛おしさだけを伝えてくる……そんな風に触れられる肌が、熱を持つ。 拒もうとしているのか、求めているのかが自分でも分からない。 自分の身体なのに、自分ではどうにも抑え込めない本能に支配され、意識が浚われそうになる。 その感覚が怖くて、無意識に伸ばした手が虚空を掴む。 「怖く…ないよ…ね?」 サクラは…その手を違えることなく掴んだ。そして、その指先に優しく口づける。 どこか躊躇いがちなその声音。 優しい響き―――。 「―――く、ない」 そう、怖くなんて……ない。それは、強がりでも何でもなく。 「あんたなら……怖くなんて、ない」 熱で浮かされた視界に映るのは、泣きそうなまでに儚く綺麗な微笑み。 とくりと、跳ねたのは鼓動。 「ん、ありがとう」 囁きと共に施される、熱い口づけが気付かせる。 痛むほどに震える胸だとか。 交わせる熱だとか。 それ以上に、この頼りない指先が捕らえるのはたったひとつの、真実。 それを僕に与えられるのは、たったひとりきりだと。 未だに導き出されず燻る答えは………僕のなかに。 ...... END |