いつも心に引っ掛かっていた。 想い 「……聞きたいんだけど」 何―――? 瞳で先を促され、サクラは自分より低い位置にある、綺麗な翡翠の瞳に向かって言う。 「君は僕のこと、好きでいてくれてるの?」 問うた途端、彼の目がすっと細められる。元々、整っている容姿の所為もあるのだけれど、そうすると一層冷やかな感じを受ける。 「……それは、僕の質問に答えたら教えてあげるよ」 何の感情も篭もっていないかのような、淡々とした口調。 「君は、僕が何とも思っていない人と、あーゆうコト出来るとでも思っているの」 そう返され、自分の失言に気が付く。 「別に、そういう意味じゃ…」 「そう!言っていたんだよ、今のあんたの台詞は」 怒り心頭といった感じのルックに、サクラは沈黙するしかない。 ―――何となく、自分を前にしながらも本に没頭しているルックの綺麗な顔を見ていたら、考えるより先に言葉が零れてしまっていたのだ。 いつもなら、絶対やらない失態に、自分自身で呆れてしまう。 「深い意味は全くなかったんだけど…」 ぼそっとサクラが呟くと、 「そんなものがあったら、今頃出血多量でホウアン先生のところに運ばれてるよ」 冷たい一瞥をくれた。 やりかねないかもしれない…。切り裂きはルックの得意技だ。 「…そんなに怒らなくても…」 「普通はね、怒ると思うよ」 「………」 当然だろう。 好きでもない男と寝るのか―――と、聞いたも同じなのだ。 勿論、言った本人にしてみれば、そんな深い意味を込めた覚えはないのだけれど。 つくづく、言葉というのは難しい。 サクラの何時にないその態度と沈黙に、何を思ったのかルックがため息混じりに口を開く。 「―――一体、何だって言うのさ」 いつもながらの素っ気ない口調だけど、それに僅かに滲む困惑。 「…ルックからは、何もくれないから」 言葉も、唇も躰も―――。 求めると、渋々ながらもくれるけど。 「僕はいつだって、君のこと抱き締めていたいし、キスもしたいし、欲しいと思ってるけど。君は違うみたいだから」 時折、堪らなく不安になる。 「何、それ…」 呆れたように言う。 何でもない風を装ってはいるけど、微かに耳朶が赤く染まっている。 「……言わなきゃ、解らなんないの?」 幾分潜めて言われた言葉に、サクラは驚いた。けれど、浮上しかけた気分を尻目に、ルックは矢継ぎ早に言葉を繋ぐ。 「だったら、大嫌いだって、あんたなんかいらないって僕が言ったらどーするの? 僕のこと諦めてグレッグミンスターに帰るの?」 「―――ルックは! そんなこと言わない」 好きだとは言ってくれないけど。キスも、それ以上のことも求めてはくれないけど。 ルックからは言葉にしない――出来ない――それらが、伝わっているから。 言葉や態度にして欲しい…と思うのは、単なるワガママだから。 「だったら、それでいいじゃない」 憮然とした表情のまま、小さく呟くルックの項が少し朱い。 それを見ただけで、気付いてしまう。 これは譲歩。 意地を張り、悪態を吐くことでしか自分を表現できないルックの、精一杯の譲歩だと。 自分の素直な心を。 それだからこそ、晒せないということくらい分かっている。 変なところで子供の彼。 「そうだね、ルックには言えないよね」 小さく睨み付けてくる綺麗な瞳。 「だったらね、僕が言っててあげるよ」 ―――好きだよ、って。 ルックの言えない言葉全て。 「―――! 要らないよ」 それこそ、頬といわず、耳朶といわず、見え得るところ全てを朱に染めて、ルックは声を荒げる。 そんな、素直じゃない彼が愛しくて…。 「だから、いつも側に居てね」 「…あんた、人の話し聞いてるの?」 目許まで赤くして言う台詞に、いつもの冷たさなんて全然感じないから。 「うん。大好きだよ、ルック」 「〜〜! 要らないって言ってるよ!」 どうやら、本気で怒ってるらしいけど…。そんなの全然平気だから。 キスもしてあげる。いつも抱き締めてあげる。君からは出来ない分、僕からあげるから。 ―――君の分まで。 だから…。 ずっと、一緒に居よう。 × × × ...... END
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