幻水1_15






 子供が去って行く。
 生まれ育ち、己が全てを失いながらも解放した国を後にして。


 最後の言葉はたったひと言。
『…………絶対、諦めないからな!』
 最後の最後まで子供らしいその台詞に、精々頑張りな…と返しはしたけど。

 僕はね……。
 ―――何も期待なんてしない。
 ―――誰も信じたりしない。



「……どこへ行きましょうか、ルック?」
 静かに声を掛けられ、声の主である師を仰ぎ見る。
 そして、ふっと思う。
 今は傍に居ない子供を。
 僕が星を勤めたこの戦争で見ていたのは、戦局でも敵でもなく、ただひとりあの小さな子供だけだったんだと、唐突に気付く。
 師以外で僕が見続けていたのは、唯一あの子供だけだった。
「…………レックナート様の思われるように」
 今の僕には、そうする事しか出来ない。
 僕の望みも、怒りも、思いも―――その全てを知るのは、師だけだから。
「―――そうですね」
 師は光を失った瞳を巡らせ、そうして…。
「では、参りましょうか……」
 そう言って、門を開いた。
「……はい」
 どこへ、とは聞かない。
 知ったとしても、結局は選べないのだから。

 ……さよなら。

 小さく小さく、誰に聞かせるでもなく呟いた。


 風は……どこまでも、流れていく。








...... END


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