幻水1_14 その権威を自ら貶めた帝国が……堕ちる。 かつて、黄金の皇帝と呼ばれたバルバロッサは、ひとりの男としてその命と愛した女のそれを持ってひとつの時代に終止符を打った。 それを成さらしめたのは―――齢13の少年だった。 「英雄、だってさ……」 風の吹き荒ぶ屋上で、どこか遠くを見ながらぽそりと呟く子供。 「……笑えるね」 「だろ?」 くっくっと、喉の奥から噛み殺した笑いが響いてくる。何が可笑しいのか…。 「今の俺にそんな事言うの、ルックくらいだろ」 「………だから…?」 だから、僕に執着するのか。 こくりと頷いて、子供は項垂れたまま言葉を続ける。 「俺だけ見てくれてるの…って、ルックだけなんだよな」 「……従者達が居るじゃないか」 「テオの息子の俺を知ってるから……」 「穿ちがちだと思うけどね」 そう言ってやると、小さく鼻を鳴らした。 「だけど……俺がそう感じるのが、問題なんだ」 ……そうかもね。 人なんて、所詮そんなに器用には出来ていない。不器用だからこそ、人間なんだ。 「……行くの?」 問うと、弾かれたように面を上げる。そして、どこか困ったような表情で小さく笑む。 「何で…解るかな〜?」 「子供が単純なんだよ」 子供がこの国を出て行こうとしている事くらい、簡単に想像付くじゃないか。 「だってさ、俺自身の時間が停滞するのに、国だけ繁栄するなんて、どう見たって変だし。バルバロッサがいい例だろ?」 「………そうだね」 置いてゆくのは国だろうか、己だろうか。 置いていかれるのは……? それを甘受出来るほどに、この子供が達観出来る訳がない。何より、自分が倒した敵が……それだったのだから。紋章に狂わされた魔女と王。 そもそも、こんな子供に国ひとつを牛耳させる事を本気で考えてる奴等なんて、正気とは思えない。 「だけど、ルックの事好きだって気持ちは本当だから! きっとずっと変わらないから」 「まだ言ってるの…?」 にんまりと笑っている子供に、ウンザリしながら呆れたように口を開く。 「だって、本当だし」 「………だったらね、」 言い聞かせるように瞳を覗き込んでやる。 「大きくなって出直して来なよ」 子供は嫌いだから。だからって、大人が好きって訳でもないけど…ね。 振り回してくれる分、子供の方が嫌いってだけだ。 傷付く痛みを知った大人なら、一度毒を吐いてやれば寄っては来ないだろ。 「…………何っ、で!」 子供の顔が、歪む。 紋章を宿した身で、成長する術を無くした子供に向けて言うには、酷い言葉だったとは思うけど。 それでも……。 「知ってるかい? 想いっていうのは、何よりも強いんだ。子供が本当にそう想ってるっていうんだったら、その想いを力に変えて見せて? そうしたら―――」 ……信じてやってもいい。 他の何も信じられないけど……それだけの想いを持ってるっていうんだったら。 「―――名前くらい呼んでやるよ。ソウって、ね」 それを持つ子供を信じてやっても……いいよ。 ...... to be continue |