幻水2_23






「逃げないけど……」
 だけど―――と、ルックは迷いのない翡翠を…真に珍しい事に合わせるのを厭うかの様に落とす。
「……でも、僕は行かなきゃならない」
「うん、解ってる」
 再会した時から、この瞬間がくる事はちゃんと知っていた。
 その時を恐怖と思うまで。
「―――逢いに行く」
 弾かれたように見上げてくるルックに、それでも笑ってみせる。
「きっと、逢いに行く。だから…」
 ―――待っててくれ。
 本当は一緒に居たいけど。どんなに望んでも、願っても、叶わない事があるってことくらい知ってる。
 人の想いの強さはこの身をもって知ったけど、だけど望み願うモノが人だって時点で、その人の想いも絡んでくるから。
 だけど、諦めないから。
 今はその時じゃないだけで、だけど諦め切れないから。
 だったら、追い掛けるしかない。
 追って縋って、そういうのって…格好悪いかも知れないけど。
 そんな醜態を晒してでも、どうしても欲しいから。
「……来れたら、ね」
 柔らかに微笑むルックに、やっぱり笑みを返した。





”待っててなんてやらないけどね、だけど……もし来れたら、お茶くらい出してやるよ”
 レックナートの開いた門を潜ろうとして振り返ったルックが告げた別れ際の台詞が、彼らしくてただ嬉しかった。
 さよならなんて言わないし、聞きたくなかったから。
”おう!” とだけ。



「さて、帰ッか!」
 そうして、再び旅に出よう。
 目的地なんてないし、アテなんてもっとないけど―――絶対、又逢える。
 絶対、捕まえる。
 それは、根拠も何もない確信だったけど。

「―――待ってろよ、ルック」

 ただ挑むように向かってくる風に投げた台詞は、たったひと言。
 風は全てを、ルックに運ぶだろうから。
 この風が、俺とルックを繋いでるんだ。
 だから、迷わずに歩いていける。



 だって、今。

 俺に向かって吹いてくる風は、こんなにも柔らかだから。








...... END


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