日常の終わり 【5】 怒りに任せた所業だとはいえ、転移の主軸を違えていない自身はあった。 それに―――。 一行の中には、真の紋章の継承者が居た。気配を隠し切ってはいたが、それでも。己の身を知るルックには、そうと知れていた。 後は、あいつが何とかするだろう…と、星見・レックナートが弟子・ルックは無責任にもその後の彼らの事は気にも留めなかった。 「お帰りになったわね」 弟子の所業を知らぬ筈はないだろうに、そうしみじみと言ってのけるレックナートに、ルックは疲れた様子で 「はい」 と頷く。 「今回の使者の方々は、変わった面々でしたね」 率いていた少年然り。彼の存在に隠れるように追従して見せていた、真の紋章の持ち主然り。 今の今まで目の前に居たその一行を思い出し、遠慮もなく渋面を作りながら。 「変わったと言うより、気持ち悪かったです」 ルックは、正直に答えた。 その弟子の失礼極まりない台詞に、レックナートは小さく微笑む。 だけれど、対人関係に慣れていないルックは心底疲れきり、何かを含んだような師のそれには幸か不幸か気付かなかった。 「それはそうと…ルック」 ふっと、思いついたようにレックナートは弟子の名を呼ぶ。咄嗟に振り向いた弟子に掛けた言葉は。 「お茶の続きをしましょう」 で、ルックはいっそ深く項垂れた。 「………もうすぐ、夕食の用意を始める時間ですが…」 「ええ、でも先ほどの焼き菓子が気になって気になって」 愁いを帯びて溜息を零す様は、彼女の危惧の中身とは相容れない気がしなくもなかったが。 「………………少しだけですよ」 正しい言をどれだけ告げても、この師に叶う訳はないのだから…と、ルックはお茶の用意の為に厨房へ足を向けた。 そして、ふっと…レックナートさまも訳の解らない人だけれど、あの近衛隊のリーダーはそれ以上かも知れない…と、深々と溜息を零した。 願わくば、次の使者はアレ以外にして欲しい―――と。 それが叶わぬ願いとは知らずに、本日三度目のお茶を用意する星見の弟子だった。 魔術師の島から望む空は、今日も晴れ渡っている。
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