日常の終わり 【4】 息も絶え絶えに最上階まで行き着いた一行の前に姿を現したのは、レックナートという盲目の女性だった。 帝国の先をみる、ただひとりの星見。 星見の間にただひとり誘われたトウは名を聞かれ、 「……トウ・マクドールです」 とだけ答える。 「そう、トウ…。優しい名前ね」 「……」 「……! あなたは…」 その後、レックナートが綴る言葉と星見の結果を受け渡され、深々と頭を下げた。 無事に星見の結果を受け取って退出してきたトウへ、初任務をこなせた感動に咽ぶ声と喜びの声が各々の従者によって告げられる。 トウ本人には特別何の感慨もない様で、そんな周囲に小さく頷くだけで返している。 「時間掛かりましたが、何かあったんですか?」 グレミオの問に、……さぁ? と頭を傾げ。 「………何か、言われた気もする」 「グレミオさん、トウにんーな事聞くだけ無駄だろ」 聞くものが聞けば随分と失礼な言い方だったが、誰もテッドを責めなかった。彼に悪意がないのは解っていたし、彼らが追従するトウが物事に深くこだわらない性質なのは長年の付き合いから知り尽くしていた。 「じゃ、そろそろ帰りましょうか」 帰還を促すクレオの声に全員が辟易の声を上げた所で、くすりと笑みを零しながらレックナートが星見の間から現れた。 「送らせましょう、ルック」 そうして、誰も居ない何もない空間に向かい名を呼ぶ。と、僅かな風の流れと共に現れたのは、森の中でクレイドールを仕掛けた少年だった。 「はい、レックナートさま。何か御用ですか?」 「こちらの方々を送って差し上げなさい。いたずらは駄目ですよ」 柔らかな笑みさえ浮かべ己にそう言うレックナートに、 「そんな事しませんよ」 と返したが。 ―――やらせてるのはレックナート様ではないですか…と溜息込みで突っ込むのは、避けた。内心、今更言った所で…という思いに占められてはいたが、それ以上に。 帝国付きの星見の印象を貶める訳にはいかない。この師の弟子であるという心労を除けば、ここの島での暮らしをルックは気に入っていた。それなりに…ではあったが。 気を取り直して、魔力を集める為に集中し始めた所で。 「………ルック?」 その集中を解くかの様に、名を呼ぶ者があった。師ではない聞き慣れない声に思わず振り向けば、視線の先には胡散臭さ満点の、一行のリーダーがルックの方をじっと見ていた。 「…………何」 初印象最悪、おまけに集中を遮られた所為もあって、対応が冷たいものになっている自覚は然りとあった。だけれど、この男相手に、それを直す気はルックには微塵もなく。 「何なのさ、」 いっそ、挑みかかるように問う。 「………名前?」 「…そう、だよ」 だから何さ、と口調が荒くなる。面倒臭い事、この上ない。 「………ルック」 「用もなく、人の名前を連呼しないでくれる」 僅かな怒気を含んだ言い様にも、相手は怯んだ様子さえなく。ルックは、その事にも怒りを覚えた。 「………ルック」 ただただ、じっと穴が開くのではないかと思うほどに見つめられ。 ルックの怒りは頂点に達した。 「〜〜〜〜〜〜ッ、さっさと行けば!」 その怒りのままに、半端にしか集中できていなかった魔力を、転移の形で放出した。
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