再逢 彩哀 …最愛   − 5




 オギとルック、ふたりが酒場から出て行くのをシーナは手にした杯を空けながら見送った。
「あんなガキ相手にすんのか」
 くつりと咽の奥で笑う隣りの男に視線を向け、シーナは目を眇めた。
 ルックをからかうのには、この男・アカザは労力を厭わない。
 退屈だからという理由にもならないような理由でそれをする、ある意味厄介な男だ。
「突っ込むなよ」
 シーナの常にはないその冷たい物言いに、アカザは訝しげに自分の横で酒を煽るその男の顔を覗き込む。
「何、何か知ってんのか?」
「……興味本位で首突っ込むな」
「何だ、それ」
「…お前なら護れたかも知れなかったから、だ」
 その可能性が過去形になってる今、深くまで関わるな―――というシーナの表情は微かに歪んでいた。
「……前から思ってたけど、お前あいつと仲良いよな」
「そりゃー、別嬪さんは許容範囲内だから?」
「つーか、何か共犯者みたい…な?」
「…………………」
 シーナは背を流れる冷汗を感じる。変なとこで鋭い…とかも、思ってたりする。
「まぁ、どうでもいいけどな」
 そう言って杯に口を付ける様に、シーナは微かに吐息を吐いた。





「……泊めて」
 夜更けというよりは夜明けに近い時間帯に扉を叩かれ、開口一番にそう言われシーナは目の前で法衣を弛めるルックの姿に苦笑を漏らした。
「何で、自分の部屋戻んないんだ」
「あんたの部屋、簡易ながらも浴室あるからね」
「その程度の部屋が割り振られるくらいには、要職に付いてる…とか考えねえ?」
 意味ありげな台詞に、ルックはそれでもその内に含まれる意を違える事などなかったようで。
「その程度じゃ、まだまだだね」
 微笑さえ浮かべてシーナを見やる。
「そこまで安くは見られてないと思うけど……まだまだ、僕の相手としちゃ役不足かな」
 まぁ、でも……と、
「あんたには感謝してるけどね」
 ルックはくすくす笑いながら、シーナの顔を見上げた。
「あんたとは、もう寝ないよ。絶対にね」
 そう言いながら、首の後ろに回した腕で引き寄せ、唇を合わせる。
 深く熱く絡まる舌に、シーナは躊躇うことなく答えた。
「…ッ、しないってんなら煽んなよ」
「場数踏んでるくせに、このくらいで煽られないでよ」
 腕の中の身体は細くしなやかで。
 キスの為に微かに上気した白い肌と、潤んだ翡翠の瞳で見つめられ。
 この存在に欲さないヤツがいるとしたら、そっちの方がシーナには不思議に思える。
「お前、自分が誰だか解っててそういう事言う訳?」
 思い切り顔を顰めて言えば、ルックはいっそ妖艶に微笑んだ。
「…バーカ」
 何を言っても流されてあげないよ。
 そんな簡単に落ちるようじゃ、ルックじゃない。気が向けば誰とでも寝ると、まことしやかな浮名が流れてはいても、実際にこいつを抱いた事のある男なんて俺が知ってる数でいっても5指には届かない。
 本人にその噂を訂正する気が全くなく、ましてや助長させるような態度を取り続ける故にそれは定着した。
 ―――実に、鮮やかな手際だとシーナは思う。
 恐らくそれが、様々な人で溢れ返るこの城で生活する上で、彼にとっては最善の対処法だろう。
 だけれど、それが理不尽だと思ってしまうのも、確か。
「………本っ当、不器用だよな」
 小さく呟いて、小さな躰をぎゅっと抱き締めた。
「何……、」
「ヤんねーから、泊まってけ」
「…………だから、あんたって好きだよ」
 一瞬、どこか戸惑ったように。
 それでも精一杯の物言いで、そう告げてくる腕の中の少年に、シーナは小さく胸が痛むのを禁じえなかった。








...... to be continue


 アカザ坊んとこのシーナとルックは、こんな関係。うん……。

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