再逢 彩哀 …最愛 − 12 人の人に対する評価なんて、それこそそうする人の数だけある。 己に対するものだとて、当然そうだ。 充分に好き勝手やってる自覚は確りとあったから……だから、そんなものを気にするなんて無意味だと知っていた。 石板前から微かに響いてくるのは、最早聞き慣れた軍主と守人の声。 「でさー、ルックはアカザの事、結局どう思ってる訳?」 聞く気なんてなかった。 だから、それが耳に入ったのは単なる偶然だ。 「さぁね、最悪じゃない」 石板守がそう言うのは、いつもの事だ。 なのに―――何故だか胸がきしり……と、軋んだ。 「実際、素直じゃないなぁーと思う訳」 そう言って、オギはテーブルの上で片方だけ頬杖を付き、心なし呆れたように見上げてくる。 「何だ、そりゃー」 何の前置きもない唐突過ぎる台詞に半分本気で呆れて、器用な格好でミルクを飲み干すオギを見やれば。それまで、頬杖を付いていた手を外し、小さな、それでも武芸者らしい無骨な指を左右に震わせてチチチッと舌を打つ。 「さっき、俺とルックの会話聞いてたろ?」 「…………たまたま、な」 聞きたくて聞いたんじゃないと返すと、俺は聞かせようと思ってタイミング計ったんだよとオギは返した。 「……………んーだよ、それは」 「そろそろ、決着付けて欲しくて?」 「あー?」 威圧的なアカザの返しに、だけれどオギは堪えた風もなく空になったカップをテーブルの上に戻し、椅子に踏ん反り返った。 「あんた達の関係はかなり鬱陶しい。あんたの登場で、ルックの感情の箍が外れてる。どんな時でも自制することに長けてたルックが、だ」 自らを制するというよりは、ルックの場合自分の感情、感覚を殺していたって方が近いんだろうけど? との台詞は、ちゃんとオギがルックという人物を理解しているからこそ言えるものだろう。 アカザの刺すような紅玉にもオギは一向に頓着しない。それどころか、腕を組み、口許に笑みを浮かべさえする。 子供のような見かけの割に、オギは強かだ。 「ルックの場合は、本気で解ってないのかも知れないと思うんだけど…………アカザは見ないようにしてんだよな」 それとも、逃げてんの? と訊かれ、アカザは眉根を寄せた。 「………お前の言ってること、解んねーよ」 「それも、逃げ」 「…………」 きっぱりと突き付けるような指摘に、いつもなら考えるまでもなく繰り出せる言葉が、言葉にならず消える。 オギは、それに気付いているのかいないのか。 「なぁ、知ってるか? ルックの中ではちゃんと変化してるんだぜ」 かつては、 "どうでもいい" と評していた男の事を。今では、 "最悪" だと。 「それって、ちゃんとアカザを見てるって事だろ」 ―――なのに、あんたは逃げる訳? 「俺、ルックに関しちゃーぁ、結構本気だから」 去り際の天魁星の言葉が、凝りのように胸元で燻り続けた。 理解しきれない感情を持て余す。 それに一番苛々しているのは、誰でもない自分自身だ。 決着を見たいのは、他の誰でもなく己に他ならないのに。 ...... to be continue
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