再逢 彩哀 …最愛 − 13 ふっと感じた気配に、ルックは訝しげに視線を扉に向けた。 それは違え様もなく、唯我独尊傍若無人を地でゆく失礼極まりない男のものに他ならない。何の用なのかと、視線は扉に向けたままで扉が開かれるのを暫し待つ。 が、何のリアクションも去る事もなく居続ける気配に小さく溜息を吐くと、読み掛けの本をぱたんと閉じる。 正直に言えば、その男の存在は鬱陶しい。 要らない感情の高まりや、見たくない己の姿を晒し出させる。 気に入らなければ取り合わなければいいと思うのに、暇を潰すのにもってこいとばかりにちょっかいを掛けてくる。 ここが自室でなく、扉の前に立つ男がアカザ・マクドールという男でなければ放っておく所なのに…と、暫しの逡巡を挟んでルックは静かに立ち上がった。 「何? 何か用なの」 扉を引き開くと、目の前には目にも鮮やかな赤い胴着と紅玉があった。微かに見開かれた目に、ルックは小さく眉根を寄せる。 「何さ」 問いに微かに険が混じる。まさか、ここがルックの部屋の前だと知らなかったとは言わせない。そんなふざけた台詞を返すようなら、鼻でせせら笑ってやるとばかりに、半ば挑発的な視線でアカザを見やった。 ―――刹那。 扉を抑えていた腕を捕られ。咄嗟に反応できなくて傾いだ身体が、強い衝撃と共に囚われた。 「――――――なっ、」 アカザの腕の中という、今現在自分が置かれている状況に。 当然訳がわからなくて、混乱を極める。 「……ヤらせろ」 アカザの低く響く声音が耳元を掠め、それにさらに拍車を掛ける。 「な、に…」 「ヤるからな」 「な、―――冗談っっ!?」 一体何を考えているのだ、この男は。 思わず逃げを打つ身体を、だけれどアカザは逃がすつもりは毛頭ないようで抱き留めた腕の力を強めた。 「ヤりてーんだよ」 混乱が怒りに取って代わる。 「相手がっ、違うだろ!」 顎を掬われ、振り解こうと闇雲に暴れるも、非力さに掛けては軍内一だと常日頃からオギにからかわれる程度にしかない力では、当然それが敵う筈もない。 「……違わねーよ」 「っ、何が…」 いつになく、真摯な色を浮かべた紅い瞳が、真っ直ぐに己の翡翠を射抜いてくる。それを受け、ぞくりと背筋が粟立つ。囚われた視線が、外せない。 これは……ナンダ? 「俺は、お前と―――ヤりてぇ」 この男は、何を言っている? 「逃げんな、よ」 この男の、こんな突き刺すかのような痛みさえも感じる視線なんて―――。 「此処に……居ろ」 …………知らない。 「気持ちいい?」 「――っ、知ら…ないっ!」 胸元の色付いた突起を嬲られ、身体が震える。そこから疼くような感覚が、体中に浸透してゆく。 「、あっ…」 もう片方を悪戯な舌に嘗め舐られ、泣きたくなるような疼きは更に深くなって…。居た堪れないそれに耐えられず身体を捩ると、頭上で両の手を結わえていた大きな掌が漸くその戒めを解いた。 解放された手が、縋るものを求めて敷布を強く掴む。 身体の線を確かめるようにゆっくりと辿られて、思わず反応を返した場所を意地悪く撫で上げられ。 ……こいつは―――っ! こんな時でさえ、意地の悪さは変わらない男に、恐らく潤んでいるだろう瞳で睨みつけた。 けれど、返されたのはにやりとした笑み。 「声、聞かせろよ」 「〜〜〜〜っ、誰が!」 冗談ではないと思う。 だけれど、そう思うだけが精一杯で。与えられる感覚に、ただただ溺れ流される。 己をただ追い上げようとする手。 情け容赦ないその動きに、翻弄されるだけ翻弄されて―――。 どうしていいのかさえ解らずに、唇を噛み締めた。 もう………何も、解らない。 ...... to be continue
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